コンピュータ教室の役割を見直す共同研究──背景には文科省の危機感が
「次世代PC教室プロジェクト」は、探究学習やSTEAM教育など、教育現場で求められる学びを支えるために必要なコンピュータ教室の在り方を研究する取り組みで、今回の共同研究は2023年12月から2024年3月にかけて行われた。
この共同研究の背景には、GIGAスクール構想で1人1台端末の整備が進んだことによる、コンピュータ教室廃止の問題がある。文部科学省は、いわゆるGIGA端末では対応できない学びに対応するために、コンピュータ教室の再整備や活用を進めることの重要性を指摘し、教育現場に通達した。
しかし、コンピュータ教室がどのような学びに活用でき、効果的な学びのためには何を整備すればよいのか。教員や学校、教育委員会にとっては情報が不足している状況だ。
そこで大阪教育大学では、今後のコンピュータ教室に必要な設備の仕様や、コンピュータ教室の活用可能性を明らかにしたうえで教育現場へ情報を発信すべく、マウスコンピューターと共同研究を開始した。
「教員養成フラッグシップ大学」である同学は、ICT教育のコースも設置され、VRなどのテクノロジーを活用した授業の実践も進めている。「こうした情報発信も当大学の役割」と、大阪教育大学の広報担当副理事である片桐昌直氏は述べる。片桐氏は共同研究について、以下のように説明した。
「コンピュータ教室に求められる要件を明らかにするため、複数の中学・高等学校で実態や要望をヒアリングした。また、必要なPCの性能を見極めるため、マウスコンピューターと連携して検証実験を実施した」(片桐氏)
では、1人1台端末が整備された現在、コンピュータ教室はどのような役割を担うのか。同学の産官学イノベーション共創センター長で、理数情報部門の堀一繁氏は「『子どもたちの高度な学び』と『教材開発の創意工夫』の2つの観点で、今後も重要な環境になる」と述べる。
「現在は高校で『総合的な探究の時間』が必修化され、課題解決型学習など、これまでよりも高度な学びの活動が求められている。今回の共同研究ではスーパーサイエンスハイスクール(SSH)で、AIや3Dプリンターなどを用いた、新しい教育・学びに関するヒアリングも実施した。そこで得られた知見をほかの学校に広げていく目的もある」(堀氏)
そのうえで「子どもたちの学びにPCが必要なのは当然である一方、先生が教材を開発する際に、ハイスペックPCなどの環境があることも重要。先生の創意工夫ができる場所としてもコンピュータ教室の必要性が増す」と説明した。
また、PCメーカーからの視点として、マウスコンピューターの執行役員である金子覚氏は「STEAMや探究学習の文脈で、コンピュータ教室のニーズは高まっている。先生や児童生徒によってGIGA端末の習熟度に差があり、より学びたい人にとって、コンピュータ教室が重要となるのでは」と指摘した。