Unityを1年間学ぶ本格的な課外講座
──「SHOTOKU TECH ACADEMY」について詳しく教えてください。
鶴岡教諭(以下敬称略):聖徳学園は、東京都武蔵野市にある、2027年で創立100周年を迎える私立学校です。10年前からiPadによるICT活用を推進しており、中学入試では一般入試のほか、プログラミング入試も行っています。
そうした背景もあってプログラミングに関心を持つ生徒が増え、学内でより発展的にプログラミングやICTの技術を学べる機会として、SHOTOKU TECH ACADEMYを2021年度に開講しました。こちらは希望者が参加する課外活動で、Unity Developerコースのほか、小型コンピューター「Raspberry Pi」を使ったコース、「シスコ ネットワーキング アカデミー」や「Swift Playgrounds」、アドビのツールを学ぶコースなどがあります。
──藤岡さんは、もともと聖徳学園高校の卒業生で、SHOTOKU TECH ACADEMYの1期生とお伺いしました。
藤岡さん(以下敬称略):はい。私は2023年に聖徳学園高校を卒業し、現在は大学で3Dモデリングを専門に学んでいます。高校時代の経験と大学での専門知識を生かして、SHOTOKU TECH ACADEMYでUnity DeveloperコースのITチューターを担当しています。
SHOTOKU TECH ACADEMYは、私が高校2年生のときに開講し、生徒向けの案内を見てプログラミングをやってみたいと思い、参加しました。私はもともと絵を描いたり、ゲームをしたりすることが好きだったこと、母がシステムエンジニアでプログラミングが身近な環境にあったことがきっかけです。
──コースに参加する前から、Unityを使っていたのでしょうか?
藤岡:いえ、Unityの名前は知っていたものの、「ゲームをつくるもの」くらいのイメージしかありませんでした。講座は有料だったので、母に「やってみたい」と相談したところ、「Unityができるようになったらおもしろいし、現在はIT系スキルが必須になってくる時代だから体験しておくのは大事」と、快諾してもらえました。
Unityの基本から始めて、最後は自分の作品づくりに挑戦!
──では、SHOTOKU TECH ACADEMYの1年間のカリキュラムを教えてください。
鶴岡:例年、体育祭や中間テストなどが落ち着いた6月ごろに、SHOTOKU TECH ACADEMYの開講式を行います。活動が本格的に始まるのは、期末試験が終わった7月ごろからで、夏休みには集中講座も用意しています。
藤岡:開講式では、校長先生のあいさつのほか、各コースの説明をITチューターがプレゼンします。Unity Developerコースではコースの概要や、これまで参加した生徒さんがつくった作品などを紹介しました。
──具体的には、どのようなことを教えていらっしゃるのでしょうか。
藤岡:Unity Developerコースでは、まずUnityの基本的な知識と実践からスタートします。例えば「このボタンを押したら、キャラクターが前に進む」といったプログラミングなど、初歩的なものを数種類用意しています。簡単な内容から始め、3学期は自分のつくりたい作品に挑戦します。
1から自分で考えて企画書からつくるとなると、調べながら進めることも多いため、時間がかかり完成に至らない場合もあります。どこまで自分の力で調べられるか、順序立てて進めていけるのか。Unityでのプログラミングを通して、そういったスキルも身につけることを期待しています。1年の最後には、自分が取り組んだ作品について発表する時間を設けているので、プレゼンテーション能力も意識しつつ教えています。
──これまで生徒さんがつくった作品で、特に印象に残っているものはありますか?
藤岡:昨年度ですと、Unityの「アセット」[※]と呼ばれる素材を使って迷路を制作した生徒がいました。迷路のコースや敵などを、自分なりにとても上手に工夫してつくっていました。
そのほか「物理シミュレーションがやりたい」という生徒は「弾を飛ばす」というシンプルなシステムから、どのようにゲームとして面白くしていくかを考えていきました。企画書からとても面白いものをつくっていた生徒はビジュアルにこだわりがあり、「自分の持っている世界観を表現するには、どのような絵柄で、どのようなことをしたら面白いのか」を考えていました。
[※]アセットとは、3Dモデルから、アニメーション、プロジェクトサンプル、エディタ拡張まで開発に使用できるアイテムのことで、「Unity Asset Store」で無料または有料で入手できます。
──藤岡さんご自身は、どのような作品をつくられましたか?
藤岡:時間がなく最終的な完成に至らなかったものもありますが、3Dのアクションゲームのほか、2Dのシューティングゲーム、3Dの学校マップといった実用的なものなど含めて、数点の作品を制作しました。
Unityを通じて、新たな視点やスケジューリングのスキルを養う
──藤岡さんご自身が受講し、そしてチューターとして生徒さんを見ている中で、Unity Developerコースに参加することによりどのような力が身につくと感じますか?
藤岡:私自身も、チューターとして担当した生徒も、「立体的に物を捉えられるようになった」と思います。私たち人間は日常生活でも物を立体的に見ながら生活していますが、ゲームをつくる際の遠近法や、どのように見えるかといったことを、改めて意識する観点が養われました。
また、ゲームやアプリをつくる際は、作業の流れを図式化した「ワークフロー」が重要です。本格的なガントチャートまではいかないにしろ、手順をきちんと立てるといったスケジューリングも学ぶことができたと思います。
──ITチューターはどのような役割をされているのでしょうか。
鶴岡:開講式でのコース説明や実際の生徒の指導、教材づくりなどを担当してもらっています。Unityは裾野が広く何でもできる分、教える側としてはかなり勉強しなければ厳しいと感じています。全国でもそこまでUnityをやり込んでいる先生は少ないでしょう。私自身、外部の教員向けプログラミング講座でUnityを学び、簡単なゲームをつくることができる程度にはなりましたが、細かい部分まで生徒に教えられるレベルには至っていません。
学校としては、Unityを学べる端末やライセンスなどをそろえて「場を用意する」ことができることの上限だと感じています。Unityの面白さを伝えるには、やはり専門的な知識を持った講師が必要です。本校の藤岡のように、SHOTOKU TECH ACADEMYで育った生徒が専門の道に進み、ITチューターとして帰ってきてくれるというのは、とてもありがたいことだと思っています。
高校時代から体験することで、さまざまな分野での道しるべになる
──さまざまなプログラミング言語がある中で、教材としてUnityが優れているのはどのような点でしょうか。
鶴岡:一般的なプログラミング言語では「最終的な完成形に対してどのようにプログラムを組んでいくか」を考えることになります。一方、Unityは最初にキャラクターがあり、自分が「つくりたい」ものに対して、どのように形にすればよいのかを考えられる点が教材として優れていると考えています。
──生徒が「つくりたい」という思いを、直感的に形にしやすいということですね。
鶴岡:その通りです。つくりたいものができたとき、モデリングができあがったときは、生徒の気持ちがワーッと盛り上がります。完成したときの高揚感や満足感というものは非常に大切で、生徒の活動にとってプラスに働くと考えています。
また、参加した生徒の中には、医学部を目指しており、「3Dモデリングは医学にも関わっている」というところから、Unityに興味を持ったケースもありました。このように、さまざまな分野において3Dが広がっている中で、生徒に体験してもらう機会は非常に重要です。Unityを一度体験してみるだけで、生徒がこれから自分の夢を追いかけていく際に「このような分野でも3Dを活用できる」といったイメージができるようになります。高校の段階で体験するからこそ、その道しるべになると思います。
──藤岡さんご自身としては、現在の大学での学びや将来の進路にどのような影響がありましたか?
藤岡:私の専門は3Dモデリングですが、プログラミングのプラットフォームを学んでおくことによって、「どのようなモデルをつくったら使いやすいか」がわかるようになりました。実は、高校時代は数学や物理が苦手だったんです。けれど、自分の目指す道には必要で、数学とか物理ができて初めて作品ができると考えました。頑張った甲斐があり、達成感もあったので、勉強のモチベーションは上がったと思います。
また、個人的にはUnityで制作した作品をポートフォリオにまとめ、大学入試にも活用できたので、その点でも非常に役立ちました。
鶴岡:Unityを使っていて物理計算や数式が出てきたとき、生徒は「物理ってこんなふうに使うんだな」「数学って結構大事なんだ」と気づきます。「実際にUnityでものを動かすからこそ、学習につながっていく部分があった」と話している生徒も複数名いました。
Unityを学べる環境は保護者からの期待も高い
──今年でSHOTOKU TECH ACADEMYが開講して3年目になりますが、校内外の反響はいかがですか。
鶴岡:当初は高校生のみを対象としていましたが、中学生で「Unityを学びたい」と熱望する生徒もいたため、昨年度からは中学生も受け入れています。
また、意外だったのが、保護者の方からの関心がとても高かったことです。学校見学に来ていた保護者の方も「高校生からUnityを学べる機会があるのはとてもよいですね」と興味を持ってくださりました。このように「Unityを学べる環境がある」ということをきっかけに知っていただくことは、学校にもメリットがありますし、今後はさらにその機会が増えてくると考えています。
──最後に、ご自身も卒業生である藤岡さんから、改めてUnity Developerコースの魅力を伝えていただけますか。
藤岡:やはりプログラミングというと「難しそう」とか「数学的で、自分には無理そう」と思ってしまう人も多いと思います。けれど、私自身がそうだったように、Unityを実際にやってみると意外と簡単なことに気づくと思います。まずは「一度触ってみてほしい」というのが私の願いです。
そして実際に触って動かしてみると、きっと「面白い!」と感じられるようになります。自分でプログラミングしてキャラクターが動くという楽しさを、ぜひ知ってほしいと思います。
──ありがとうございました。
さいごに
高校で「情報Ⅰ」が必履修になったものの、限られた授業数の中では、本格的なプログラミングまで踏み込むことができないという現状がある。聖徳学園高校のように、課外活動として希望者向けに講座をつくることで、プログラミングに意欲のある生徒の受け皿だけでなく、興味のある未経験者へのきっかけづくりにもなる。特に、人気のゲームやアプリの主要な開発環境として知られるUnityは中高生にとって親和性が高く、モチベーションを保ちやすい。生徒に、もっとプログラミングを学ぶ機会を与えたいと検討している学校は、ぜひ同校の事例を参考にしてほしい。
プロの現場でも使われているUnityを学生は無料で利用可能!
さまざまなゲームやアプリの主要な開発環境であるUnity。学生の方は無料で利用することができます。詳しくはUnityの教育機関向けページをご覧ください。