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そろばんを応用した新暗算学習法「そろタッチ」――運営会社Digikaの橋本恭伸氏が語る「イメージ暗算で育む自己肯定感と創造性」

EdTechビジョナリーインタビュー 第2回

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2018/06/27 14:00

 「読み・書き・そろばん」ともいわれ、日本人の教育の基本とされる「そろばん」は、子どもの習い事として根強い人気を誇ってきた。その考え方を応用した新しい暗算学習法「そろタッチ」が、2017年度の「日本e-Learning大賞」を受賞するなど、再び熱い注目を集めている。デジタル化が進む時代に、なぜ教育の手法として改めて高く評価されているのか。また、どのような仕組み、教材、学習法で、何を習得できるのか。運営会社である株式会社Digikaの代表、橋本恭伸氏に「そろタッチ」開発の経緯や事業への想いについて語っていただいた。

株式会社Digika 代表取締役社長 橋本恭伸氏
株式会社Digika 代表取締役社長 橋本恭伸氏

自身の子育てを機に「教育のあり方」に関心――日本の子どもたちの可能性を広げたい

――橋本さんはもともとマイクロソフトや楽天にいらっしゃったわけですが、まったく畑違いの教育事業に携われるようになったきっかけや経緯についてお聞かせください。

 教育について考えるきっかけになったのは「子どもが生まれたこと」です。当時は楽天の、インドネシアを対象にしたEC会社のディレクターとしてジャカルタに勤務していたのですが、異国での子育てについて相談できる人はほとんどいませんでした。全てを一から始める必要があり、自然と「子どもの将来」を考えるようになったのです。

 しかし、現在のような変化の激しい時代に、未来予測などできるわけがありません。私の世代ですら、こんな未来が来るとは思いもよらなかったですから。どんなスキルやナレッジもすぐに陳腐化する時代、子どもに何を学ばせ、何を経験させれば良いのか、どんなに考えても答えが出るわけがありませんでした。

 しかし、自身を振り返ってみると、学校の勉強では英語やITもまったく身についてないのに、外国で楽しく働けていたんですよ(笑)。学校で学ぶことや経験に不足があったとしても、可能性を信じ、情熱を持って取り組むことこそが重要なのだと思い当たりました。そして、かつて新卒で入社したマイクロソフトのタグラインも「Your potential. Our passion.」であり、楽天でも同様に「可能性と情熱」に惹かれて入社したことを思い出したのです。

 そう考えると、子どもこそ「未来の可能性」の最たるもの。それも自分の子どもだけでなく、多くの子どもたちの可能性を最大限に引き出す手伝いをしたいと考え始めました。そして、2016年にインドネシアでの任務を完了し帰国した頃から、次は自身の情熱の対象として教育関係に携わりたいと考えるようになったのです。

――ご自身のお子さんへの教育だけでなく、日本の多くの子どもを対象とする教育事業に関わりたいと考えるようになられたのはなぜですか。

 やはり外国に暮らして、さまざまな国の若い人たちと働いた経験が大きいと思います。例えばインドネシアの若者は、初任給は日本の1/7程度ながら、自分の可能性を信じ、仕事に対してハングリーに取り組む人ばかりでした。情熱的でチャレンジスピリッツに満ちあふれ、そして底抜けに明るい。一方、日本の若者は恵まれた環境にあって知識もスキルも秀でているのに、自己肯定感が低いといわれています。このままでは日本自体が世界との競争に負け、衰退してしまうのではないかといった危機感がありました。

 もちろん日本の教育水準は高く、理念も優れたものが多くあります。でも、なぜか自信がなく、チャレンジ精神に欠ける子どもが少なくありません。それを補うものはいったい何かと考えた際、やはり自己肯定感を育むことが大切なのではと考えたわけです。

 そもそも日本の多くの教育は「あるべき答え」にどれだけ近づけるか、という減点方式が多いです。しかし、自己肯定感を育むにはたくさん失敗して、そこから起き上がって成功する経験をたくさんしなくてはいけないんですよね。そう考えると、失敗も成功のための糧と感じられ、失敗の可能性が高い挑戦にも躊躇しなくなる。その結果、少しずつ「できることが増えていく」という成長実感へとつながり、再び新しい挑戦へと進む原動力になる。それを何らかの形で得られる教育ができないかと考えるようになりました。

最も基礎的な分野ながら苦手意識の高い「算数」、応用の繰り返しで自己肯定感と数字への自信を育む

――自己肯定感を育み、挑戦意欲を増すための教育方法として、そろばんに着目した「そろタッチ」を選ばれたのは、どのような理由からなのですか。

 まず私自身が「算数」に対して特別な思いを持っていたことがあります。子どもの頃、計算が速いと「頭がいい」と思われましたよね(笑)。 そのおかげで、私は自己肯定感を持つことができたのだと思います。ところが世間では、算数や数学は子どもが最も「嫌い」「苦手」な教科とされています。

 しかし、これからの社会に価値を創造する基礎力とされる「STEM教育(Science:科学、Technology:技術、Engineering:工学、Mathematics:数学を重視した教育)」が重要となる中で、「算数が嫌い」「数学が不得意」では、後々の人生に大きな影を落とすことになりかねません。苦手意識を持つ前に、算数を好きになること、数字に対する自信や関心を持つことが大事だと考えていました。

 またもうひとつ、学習の獲得目標において意識しているのが「ブルーム・タキソノミー(目標分類学)」です。私がイギリスでMBAを取得した際に教授から意識するよう指摘されてから、常に頭の片隅にあり、創造性がますます重要視されるこれからの教育においてとても重要なポイントであると考えていました。

 これは学問や知識の習得において達成すべき目標を体系付けたもので、「記憶」「理解」「応用(活用)」「分析」「評価」「創造」の6段階で構成されています。日本の教育では知識を「理解」しているかどうか、テストで確認するところまでがメインですが、新たな価値を創造する力を得るためには、その先の「応用」「分析」「評価」が必要とされています。このとき最も重要なのは「応用」「分析」「評価」の反復であり、それが新たな能力や創造する力を育むのです。

 まさに「そろばん」による暗算能力習得を目指した「応用」「分析」「評価」の反復は、ブルーム・タキソノミー的には有効な学習法といえるでしょう。さらに、そろばんの反復学習で習得できる「暗算上級」は、数字を珠の形のイメージで捉える、脳のイメージを処理する部分も同時にフル活用する能力で、筆算では使わない脳を開発し子どもたちの可能性を広げます。

 私がインドネシアから戻ってきた際に「そろタッチ」の開発者であり、そろタッチ教室の前身となるそろばん教室の創業者である山内千佳(現代表取締役会長)と出会い、STEM教育に対するイメージ暗算のインパクトの大きさと「子どもたちの可能性を最大限引き出すことに寄与したい」という思いが一致し、合流することになりました。

 しかしながら、従来運営していた教室では4年間通っても「暗算上級」にたどり着けるのはわずか10%に過ぎませんでした。ところが、海外で主流の両手そろばんをiPadの画面上で行う「そろタッチ」なら50%を超えるのです。

――「そろタッチ」のシステムや工夫についてもう少し詳しく教えてください。

 「そろタッチ」では、世界のそろばんのスタンダードである「両手式」を採用しています。また、iPadの画面上で珠を上下動ではなくオンオフ式で操作することにより運指の回数が減り、効率的な操作が可能です。さらに珠が「見えるモード」と「暗算モード」があり、その繰り返しによって珠をイメージし、暗算のトレーニングができるようになっています。

日本のそろばんは「片手式」が主流だが、世界的には「両手式」がスタンダード。より素早く計算ができる手法だ。
日本のそろばんは「片手式」が主流だが、世界的には「両手式」がスタンダード。より素早く計算ができる手法だ。

 そこに至るまでには、実はいろいろな試行錯誤がありました。教室に通っている子どもの保護者を巻き込んで、音声ペンや計算機のような道具、紙の教材など、さまざま学習法やツールを手作りで試してきました。その積み重ねの中で、珠が動くのではなく、アクティブと非アクティブで珠を表示するタッチ式の方法を考え、デバイスにはiPadを採用し、表示方法や音、スピードなどの最適化を行ってきたのです。

 その結果、2015年に開発したベータ版でイメージ暗算ができる人は29%、私が参画した翌年である2017年には56%となり、4年かかっていた到達期間が、およそ2年弱にまで短縮できました。2018年は半年過ぎたところですが、すでに7割を超えそうです。そして、今も試行錯誤を常に続けています。飯田橋の本教室では「ラボ教室」として、保護者も巻き込んだ、さまざまなトライアルを行っています。


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著者プロフィール

  • 森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

    2016年10月に翔泳社へ入社し、CodeZine編集部へ配属。2017年4月からはEdTechZineの編集も兼任。前職は組み込み系ソフトウェアエンジニア。

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

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