多くの役職を掛け持つ世耕氏のキャリアと大学の経営組織
近畿大学で経営戦略本部長を務める世耕氏は、1992年に大学を卒業した後、近畿日本鉄道に入社した。同社でホテル事業に携わった後、広報を担当。これが人生で初めて広報に携わった機会だったという。
その後2007年に、近畿大学の入学センター入試広報課長として就任。同センター事務長、広報部長、総務部長を歴任し、2020年4月より現職の経営戦略本部長を務めている。
近畿大学は、経営を担う経営戦略本部、総務や経理を担当する法人本部、大学の運営をする大学運営本部、病院を運営する医学部・病院運営本部、そして7つの附属学校を束ねる併設学校運営本部の5つの本部で構成されている。
世耕氏が所属する経営戦略本部は、経営戦略や中期計画を担う企画室、大学の情報発信や学生募集を扱う広報室、大学のDXを推進するデジタル戦略室、そして学生の起業を促す起業・関連会社支援室の4つの部門で構成されている。
世耕氏は経営戦略本部長に加え、オンライン授業を提供する通信教育部の部長、約800億円の費用を掛けて附属病院を大阪の狭山市に移転する、病院移転プロジェクト推進室の副室長、さまざまな訴訟問題に対応する法務部の部長代理、そして秘書室長事務取扱など、幅広い役職を兼務しているという。
他の大学とは違う、近畿大学ならではの学部構成と受け継がれる教育理念
近畿大学は、学校法人全体で約5万2000人の学生が在籍しており、この数は日本大学に続いて2番目である。総学生数ランキングのトップ10の他大学と比べると、1925年創立の近畿大学は歴史が浅く、短期間で成長を遂げたことが見て取れる。
また民間企業でいう「総売上高」にあたる、近畿大学の事業活動収入は1415億円で、近畿地区の大学の中では群を抜いて高い。
収入の高さの理由について、世耕氏は「われわれの大学では、授業料などの学納金が全体収入の39%、それを上回る『医療収入』が44%で大部分を占めているから」と説明した。
また、近畿大学は15学部49学科を設置しており、医学から芸術まで幅広い学問を扱っている。
近畿大学の学部における特徴について、世耕氏は文系と理系のバランスに言及した。同大学では文系学部が50.8%、理系が49.2%となっており、他大学に比べ理系の割合が高いという。例えば立命館大学では理系が全体の約3分の1、同志社大学や関西学院大学では5分の1程度ということで、近畿大学における理系学部の割合の高さがよく分かる。
しかし大学経営の面から考えると、理系学部は施設費用が高く、専門性の高い教員を多く確保する必要があるため、収支の効率が悪いという。この点について世耕氏は「多くの大学は理系学部に手を出しにくい。しかしわれわれは『社会に貢献する』という目的意識から、医学部を含めたほとんどの理系学部を網羅している」と近畿大学の特徴を強調した。
また近畿大学は創設時から一貫して、社会生活において必要とされる実用的な学問である「実学教育」を重視している。世耕氏いわく、戦前の日本の教育において実学教育は「専門学校や工業高校がやるべきもの」とみなされ、馬鹿にされていたという。
しかし、近畿大学初代総長の世耕弘一氏が「実学教育」を貫き、その理念を受け継いだ結果「近大マグロ」で有名な、世界初のマグロの完全養殖に成功した。世耕氏は「今日、マグロを安価で口にできるのは近畿大学の研究の賜物。われわれは世界の食卓を激変させた」と述べ、近畿大学の「実学教育」の理念を強調した。
さらに、イギリスの教育専門誌『Times Higher Education』が公表する世界大学ランキングにおいて、近畿大学は上位4%にあたる800位前後に入っている。このランキングは教育の質や、その大学に所属する教員が出した論文の内容などから総合的に順位付けがされるため、「近畿大学の教育のレベルの高さを示している」と世耕氏は述べた。