2つの大学を統合し、あえて大阪公立大学を新設した3つの狙い
大阪公立大学の学長である辰巳砂氏は、1980年より大阪府立大学 工学部で助手として化学を教えていた。その後1996年に同大学 工学部の教授となり、2015年には工学研究科長に就任。その4年後の2019年に同大学の学長に就任した後、2022年に大阪市立大学との統合によって新設された「大阪公立大学」の学長となった。また辰巳砂氏は学長を務めながら、自身の専門分野である固体電解質と全固体電池材料の研究にも携わっている。
統合前の市立大学と府立大学は、それぞれ約8000人の学生が在籍しており、2022年の統合で約1万6000人の学生が在籍する大阪公立大学が誕生した。学部入学定員数は約2850名で、国公立大学では東京大学、大阪大学に続いて3番目の規模だ。
同大学は「総合知で、超えていく大学。」をキャッチコピーにしており、大阪に設置されている公立大学として「大阪の発展を牽引する『知の拠点』になる」ことを目指している。内閣府科学技術・イノベーション推進事務局によると「総合知」とは、自然科学や人文・社会科学などの専門領域の枠にとらわれない多様な「知」だという。[※1]辰巳砂氏はそのうえで、「世界に向かって発信し、グローバルに発展する高度研究型大学を目指す」と強調した。
続いて辰巳砂氏は「統合前の2つの大学はそれぞれ約140年の歴史を持ち、かつ大規模であったため、統合せず2大学1法人の形でも問題はなかった」としながらも、あえて統合に至った狙いを説明した。1つ目は両大学の構成が互いに相補的であった点だ。両大学は重複分野がほぼなく、統合することでフルラインアップの幅広い学問領域が実現したという。
2つ目は、高度な融合研究の展開をすること。府立大学は工学・農学・獣医学・社会福祉などに強みを持ち、市立大学は理学・医学・人文科学・社会科学などに強みを持っていた。それぞれの強みが組み合わさり高度な融合研究を展開することで、課題解決に寄与することを目指すという。
3つ目は、少子高齢化・大学間競争の激化への対応をするため。辰巳砂氏は「今アジアでは1万人規模の大学が力をつけてきており、世界と戦っていくためにはスケールメリットが必要」とし、統合の必要性を訴えた。
これら3つの狙いを持って新設された大阪公立大学は1学域11学部、大学院は15研究科をそろえた。辰巳砂氏は「フルラインアップの布陣ができた」と述べ、同大学の幅広い学びの領域を強調した。
[※1]内閣府科学技術・イノベーション推進事務局 「「総合知」の基本的考え方及び戦略的に推進する方策中間とりまとめ」(PDF、P.3,13)