最初に、富士通研究所フェローであり、システム研究機構国立情報学研究所リサーチグリッド研究開発センター長の三浦謙一氏が冒頭のあいさつを述べた。
富士通でスーパーコンピューターの開発に長年携わってきた三浦氏は、4歳の孫が「キュベット」を遊んでいる様子を見て、未就学児にも関わらずうまく使いこなしていることに非常に感心したとエピソードを紹介した。
さらに、「キュベットは、問題の設定や経路、障害の回避などの手順を考えて、将棋の駒のように操作ができる。さらに、われわれが『ループ』と呼んでいるプログラミングの要素が入っており、小さな子どもが考えながら遊ぶことができる、非常に優れたおもちゃだ。現在は、教室で生徒に使わせている」として、プログラミング教材の有用性を語った。
サイエンス作家 竹内薫氏が語るプログラミング教育の必要性
基調講演では、科学者、サイエンス作家の竹内薫氏が登壇。「子どもの未来を拓くプログラミング教育」というテーマで講演を行った。竹内氏は、2016年に日本語・英語・プログラミング言語の「トライリンガル教育」を掲げた小学校「Yes International School」創設し、現在は校長も務めている。
竹内氏は「AIの時代がまもなく到来する現在、自分の子どもの教育を考えた際に、適切な小学校がないという切実な問題があった」と、Yes International Schoolの設立の経緯を話す。
「人工知能時代と呼ばれるこれからは、予測不可能な時代に突入する。例えばノートPCの容量が500GBだとして、人間の脳はたったの0.5GBといわれている。しかし、人間の脳はすべての情報を覚える必要がない。むしろ、論文を読んだり仲間とグループで仕事したりするといった使い方こそが重要。記憶容量の大きい人工知能が入ってくると、丸暗記では人間は太刀打ちできない」とし、クリエイティブに仕事をする必要性を語った。
暗記型・ドリル学習から、プロジェクト型・課題解決型へ
さらに竹内氏は、現在の教育の問題点を挙げる。かつて富国強兵を掲げていた日本では、「暗記型・ドリル学習」を推奨する教育が続いてきた。しかし、現在は「その教育モデルがくずれ、実は大変なことになっている。日本は危機感が足りず、新しい学びへの動きが非常に遅れていると感じている。例えば、危機感を持っているイギリスは、現在国を挙げて先進教育を進めている」と、警鐘を鳴らす。
「暗記型・ドリル学習」に代わるのが、「プロジェクト型・課題解決型」だ。そのためには、「言語スキルが必要」と、竹内氏は指摘する。「グローバル化が進んでいる現在、論文を読んだり書いたりするのにも、インターネットで情報収集するのにも英語スキルが必須」と、英語の重要性も語った。
さらに、もうひとつのスキルとして、数学が重要であると竹内氏は強調する。
「数学がプログラムと連動していることが、社会の変革の最もコアな部分である。現在、1日の活動においてプログラムで書かれたサービスに接しない日はない。スマートフォンやATMなど、すべてがプログラム化、つまり数学化されている。そこで、第三の言語としての数学・プログラムが必要と考えている。これらの言語スキルを持った上で課題学習をしていかないと、AIに仕事を奪われる時代になっている」(竹内氏)
また、IoTをはじめとした新たなサービスによって便利になった反面、スマートフォンの乗っ取りをはじめとしたセキュリティの問題が浮上してきた。「プログラミングを学ぶべき理由のひとつに、セキュリティに対するリテラシーを学べる点がある」と竹内氏は続ける。
「永遠に疲れない人工知能の特性を理解すれば、人間がやるべき部分もわかってくる。パターン化された仕事はAIにまかせて、人間は創造性を発揮する仕事を担当すればいい。人間はこれまでさまざまなツールを使ってきた。AIはひとつのツールで、人間の外部脳として使いまわせばいい」と、竹内氏はAIの活用方法を語った。
最後に、竹内氏が運営を行っているYes International Schoolの紹介が行われた。同校は今年4月、新たに東京校を開校し、不登校の子どもたちも受け入れている。
「年々不登校の子どもが増えているのは、既存の学校システムが古くなったことに起因する。現在およそ13万人いるとされる不登校の子どもの中には、古い教育システムが合わず、逃げ出してきた子どもたちも少なくない。Yes International Schoolでは、そのための受け皿としてのプロジェクトも行っている」とし、教育が変わっていかなければいけないという現場からの意見を伝え、竹内氏は講演を締めくくった。