日本電気(NEC)、NECソリューションイノベータ、中部地方の児童相談所は、児童相談所の業務(児童虐待通告への初動対応や通告内容をもとに行うアセスメント業務)の職員サポートにAIツールを活用する実証実験を実施し、約54%の対応の質向上、約33%の業務時間削減を実現したことを、5月30日に発表した。
児童相談所における児童虐待の相談対応件数は年々増加し続けており、それに比例して職員の業務量も増加している。一方で、定年退職や人事異動などでベテラン職員が減少しつつあり、ノウハウを経験の浅い職員にどう定着させるかという課題も存在する。さらに、多くの会議や面談記録の文字起こしといった単純業務に多大な作業時間を要しており、それらが業務を逼迫している。
同実証では、中部地方の児童相談所との検討を重ね、AIの役割を「経験の浅い職員でもベテラン職員と同じような着想で動けるようにサポートすること」(想像力をかき立てるAI)と定義し、同児童相談所の過去事例から通告内容の類似事例を表示するといった、職員の業務負担を軽減し、ともに伴走するツールとして設計した。
また、虐待の初動対応は48時間ルールに基づいて、スピード感を持った対応が求められることから、タブレット端末でのタッチ入力や音声入力を活用することで、AIへの入力や操作に時間を要さない「現場を邪魔しないAI」としている。
具体的な実証環境としては、児童相談所における約600件のリスクアセスメントデータと、それに紐づいたベテラン職員の知見・ノウハウをAIに学習させ、類似事例や調査に有益な情報をAIがすばやくレコメンドできるAIツールを研究・開発した。
今回の実証では、身体的虐待、精神的虐待・ネグレクトという模擬3ケースを用意し、「AIなし/あり」で、ベテラン職員が作成した対応内容にどこまで近づけるかの検証と記録時間の測定を行った。新人職員や経験の浅い職員が中心となり対応方針を検討しつつ、中堅・ベテラン職員が何かあればサポートを実施する方法をとっている。
その結果、新人職員および経験の浅い職員が、通常業務において同ツールを追加・補足的に使うことで、対応の質が約54%向上することが確認されたほか、会議や面談記録などの文字起こしといった記録業務に音声認識AIを活用することによって、文字認識精度約91%という高い精度で、約33%の業務時間削減を実現した。実証実験後に新人職員および経験の浅い職員へのアンケートでは、有益性について5段階評価で4.4という高い評価が得られている。
今後は、同実証で得た知見をもとに、児童虐待相談業務におけるAIツールの活用について引き続き共創しながら検討する。さらに、家庭児童相談室や他の関係機関とのノウハウ共有ができるよう、類似事例等のベストプラクティスな事例を汎用化し、子どもの福祉全体の質向上・支援強化に貢献する。
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