大阪府吹田市教育委員会は、2022年度に文部科学省から受託した「いじめ対策・不登校支援等推進事業」の取り組みに関して、2月17日に「『いじめ・不登校等の未然防止に向けた魅力ある学校づくりに関する調査研究』報告会」を開催し、事業成果を発表した。
同事業では、2021年度に引き続き、子どもの発達科学研究所が全面協力しており、2021年度までに行われた研究・実践の成果を活かして、継続的かつ科学的ないじめ予防への取り組みを実施。新たに、日々の児童生徒の健康観察をデジタル化したアプリ「デイケン」を活用し、児童生徒が簡便にSOSを発信できる環境づくりや、リスクのある児童生徒の早期発見と早期支援を試みている。
報告会では、吹田市内の学校で実際に「デイケン」を使用した実践例や使用前後での児童生徒の変化、取り組み成果の科学的な調査結果を発表した。
同事業の特徴は以下の通り。
- 健康観察の内容を科学的に精査・改善したうえでデジタル化し、児童生徒のメンタルヘルスの日々の変化の把握と簡便なSOS発信の仕組みを実現(「デイケン」の導入)
- 「デイケン」の導入によって得たデータと「こころの健康観察NiCoLi」や「学校風土いじめ調査」などのデータを比較・分析することで、「デイケン」の回答項目が科学的に妥当かを明らかにするとともに、「デイケン」の現場での利用の在り方とその可能性について検討
- 2021年度に同事業にて開発した動画コンテンツの積極的活用や、「デイケン」「こころの健康観察NiCoLi」の利用による、いじめや不登校の予防に関する効果について検討
「デイケン」の特徴は以下の通り。
- データを蓄積し、一人ひとりの体調、メンタルヘルスの変化を追跡することが可能
- エビデンス(これまでの研究成果)に基づき、子どもの心身のリスクを判定して通知(アラート機能)
- これまで経験則に頼ることが多かった、教員の判断を科学的にサポート
- 教員の介入支援行動のデータ化により、介入支援の記録の客観視、共有化が可能
「デイケン」に入力された回答データは、これまでの蓄積データと合わせて即時に解析され、児童生徒の心身の状態がリスクが高いと判定された場合や、児童生徒から相談希望がある場合は、教員用のダッシュボードにアラートが表示される。個々の支援者の判断だけに頼るのではなく、対応の遅れや抜け漏れを防ぎ、学校全体での早期発見・早期支援が可能となる。
今回の事業では、「デイケン」の実施とともに、子どもたちのメンタルヘルスの状態を測定する質問調査「こころの健康観察NiCoLi」や、学校全体の状態を把握する「学校風土いじめ調査」の2つの調査も行われた。これらの調査は、子どもの発達科学研究所によってすでに科学的に信頼性・妥当性が確認されており、これらの調査と組み合わせることで「デイケン」の回答項目が科学的に妥当かを明らかにするとともに、「デイケン」の現場での利用の在り方とその可能性について検討を行っている。
子どもの発達科学研究所の和久田学主席研究員からは、「『デイケン』実施校では、いじめ被害頻度の減少や学校風土得点の増加が見られる」「『デイケン』実施校では、新規不登校発生率が明らかに抑えられている」といった最新の調査結果などが報告された。
さらに、和久田主席研究員は今回の調査研究について、「『デイケン』がメンタルヘルスの悪化を予測している、『デイケン』の実施は不登校の発生を予防できる可能性を含んでいる、ということが今回の研究から明らかとなった。しかし、研究はまだ始まったばかりであり、今後も継続して実施していくことが必要」とも指摘している。
なお3月1日からは、報告会当日の様子に解説を加えた動画をYouTubeで限定配信する。
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