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AI時代を生きる子どもたちに必要な能力とは?
まず、東京工業大学名誉教授の赤堀侃司氏が登壇し「AI時代を生きる子どもたちの資質・能力」と題して、講演を行った。
赤堀氏は最初に、第二次世界大戦でドイツ軍が使用した難解な暗号「エニグマ」の解読に成功した、イギリスの数学者アラン・チューリング氏の業績を語り、同氏が「AIの父」と呼ばれるに至ったエピソードを披露した。そして、チューリング氏が考案した「チューリング・テスト」を紹介。「チューリング・テスト」とは、壁の向こうにいる質問相手が機械か人間かを当てるテストで、ドイツでは中等教育で学んでいるという。例えば「今日は暑いですね」というあいさつに対し、異なった回答をしたAとBのうち、どちらが人間で、どちらがコンピューターかを当てるというものだ。
赤堀氏は日本の60人の学生を対象に、疑似的なチューリング・テストを行ったところ、92%がAIと人間を見分けたという。「学生はAIと見抜いた理由について、『今日も暑いですね』というあいさつに対し『共感ではなく、提案したため』と答えた。これはとても素晴らしいこと」と、赤堀氏は話す。「共感」はデータのみで判断するAIには不可能で、人間にしか成し得ないことだからだ。
そして、第2次AIブームと言われていた1982年に研究を行った際には「AIは教育に使えない」という結論に達したことを伝えた。「人間が持つ最大の知識である『常識』はコンピューターにはインストールできなかった。だが、ビッグデータが普及している現在ならば可能だろう」と赤堀氏は話す。
その上で、AIと比較した際に人間が持つ特徴として「文章の中に、主語や言葉が抜けていても、それを推測して補う力がある。俳句などがまさにそう。コンピューターと異なり、人間は言葉が示す意味やイメージの中から、どれが重要かを直感的に理解し、それらをつなぎ合わせることができる」と解説した。
次に赤堀氏が語ったのは、毎日の給食の時間に子どもたちと会話を楽しんでいたという、ある小学校の校長のエピソードだ。
「子どもたちと話すと、大人が答えられないような質問もたくさん投げかけてくる。その校長先生は職員室に帰って疑問を調べることが、楽しくて仕方がなかったそうだ。『疑問を持つ』ことは『学ぶ』ことにつながるが、AIは疑問を持たない」(赤堀氏)
赤堀氏は「学生はデータだけで勝負する」として「常々、学生には『インターネットで調べたのはデータで、そこに考察を加えないと、本物になり得ない。君のアイデアはどこだ。それで研究したことになるのか』と伝えている」と語った。
さらに、AI時代に必要な能力として、赤堀氏は「感じること」を挙げた。中学校教諭の平澤真名子氏の論文によると、小学生の国語の読解力問題で「感動した部分に傍線を引く」「大事な部分に引く」「何もしない」という3つの行動パターンで成績を分析したところ、感動した部分に線を引いたグループの点数がもっとも高かったという。
「今日のサミットでの事例発表は、どれも子どもがわくわくしてやってみたいと思うものだろう。これこそが『感動』であり、だからこそ効果として表れている」と、赤堀氏は語った。さらに「AIには心がないが、人には共感する心がある。この『共感』があれば、いじめや不登校は減っていくだろう」と伝えた。
最後に、赤堀氏は「ICTという道具には光と影がある。うまく使えば不登校の解消につながるが、下手に使えばネットいじめの原因にもなる。だから『正しく使おう』としてできたのが『情報活用能力』だ」と語り、講演を締めくくった。