6年前のプロジェクトが現在の仕事にもつながる
続いて、2016年当時の取り組みに参加し、現在は社会人として活躍する森川李奈さんがビデオで登場した。現在は金融機関のデザイン部門に勤務しており、フライヤーや名刺、Webサイトなどさまざまな制作物に携わっている。業務ではPhotoshopやIllustratorをはじめ、「Adobe XD」「Adobe Premiere Pro」などのデジタルツールを毎日のように使用し、プライベートでも愛用しているという。
森川さんは「高校時代のARプロジェクトの経験が、自分の糧になっているのは間違いない。当時からさまざまなツールを使い、スキルの面でプラスになったのはもちろん、多様な人々と協働する経験が現在の仕事に生きている。今後もほかの人とコミュニケーションを取りながら、何かを一緒につくっていきたい。仕事でもプライベートでも楽しみながら学び続けて、その楽しさを次の世代にも伝えたい」と語った。森川さん自身も高校卒業後の進路で悩んでいたが、ARプロジェクトを機にデザインを学びたいと考え、大学への進学を決意。現在の仕事に就くこととなったという。
その活躍ぶりを知り、小崎氏は「教育委員会は環境整備などの裏方仕事で苦労も多いが、報われた思いがする」と語り、森川さんが高校の情報科の教科書にも登場し、現在の高校生のロールモデルとなっていることを紹介した。そして「教育の現場でがんばっている先生だけでなく、ベンダーが優れたツールを提供してくれて、私たちが行う環境づくりがあって、その上で本人の努力もあり、大変幸せな効果が得られている」と語った。
そしてもう1人、当時高校生だった小西奈菜子さんも、ARプロジェクトを機にデジタルツールに興味を持ち、グラフィックデザインの専門学校に進学した。その後2年間、漆職人としての修業を経て、現在は金継ぎ教室を開催しながら、漆の塗り直しなどの依頼を受けている。さらに並行して、2022年の日本伝統工芸展に出品するなど、漆作家として作品づくりにも積極的に取り組んでいる。その中で、プロジェクトを通じて出会ったPhotoshopなどのツールを、漆器のデザイン制作などに活用しているという。
「デジタルツールを使うことで細かいデザインが可能になるので、今後もぜひ漆の作品制作に活用していきたい。漆の古典的なよさを活かしつつ、現代的なデジタルツールを活用することで生み出される新しい価値を追求していければ」と意欲を語った。
松下教諭は2人のコメントを受けて、「このような形で卒業生の活躍を見ることができ、感謝でいっぱい。依水園で将来の夢を語っていた2人が、それぞれの夢に向かって歩き出し、活躍していることが何よりもうれしい」と語った。そして、プロジェクトを進める中で突然大学に行きたいと語りだした森川さん、大きな会場で発表することで自信がついたという小西さんのエピソードを紹介し、「それぞれが私が知らない世界で活躍していることが喜ばしく、さらなる成長を楽しみにしている」と語った。
アドビの小池氏も「近年、PBL(問題解決型学習)などに教育のベクトルも変わってきているが、取り組んでいる間は、子どもたちのためになると信じつつも将来どうなるかを知ることはできない。だからこそ、実際に6年前に学んだ2人が、問題解決能力を発揮し、デジタルツールを駆使し活躍しているのはうれしいこと。私たちが教育プログラムやデジタルツールを通して『未来に必要な能力』として掲げてきたものが、お2人の中にしっかりと体現されている」と語った。