どのようなことから依頼すべきか
連載の1回目と2回目では、ICT支援員の実際の仕事をお伝えしてきました。
2022年度4月より、ついに高等学校を中心とした都道府県立の学校でも、1人1台端末の活用がスタートしました。それに合わせるように都道府県立の学校にもICT支援員が訪問し始めています。
これまでの連載では、ICT支援員の特徴として「教員ではない」こと、「SEではない」ことを挙げました。一方で、ICT支援員はその業務の特性から、どちらの分野にもある程度の理解がないと務まらない仕事でもあります。時と場合により、教員側・SE側に寄って臨機応変に対応範囲を変えることが望まれる難しい仕事ですが、先生や教育委員会の方、そして支援員事業をされる企業の方に知っておいてほしいのは、それぞれの学校において、以下の理由からICT支援員に必要とされるスキルにはかなりの違いが出るという点です。
【1】学校の種類
小学校・中学校・高等学校(普通科・商業・工業・農業など)・特別支援学校それぞれで必要とされるICT機器やアプリには違いがあります。
【2】私立か公立か、学校にどのくらいの権限が与えられているか
各学校のICT機器導入と管理の方法の違いにも影響されます。学校で自由に設定や運用を決められる私立校と、ある程度教育委員会でルールを決めていたり、管理する権限を教育委員会だけが持っていたりする公立校ではできることが変わります。
【3】学校のICT活用に関する成熟度
インフラや機器の台数、予備機、保守体制などが整うまではSE的な業務や事務作業が多くなります。しかし環境が整って使えるようになると、それらを使って「どのように授業をすればよいのか」「効果的な活用とは何か」など、教育的な視点を求められます。また、情報モラルやプログラミングについても助言をしなくてはならないシーンが出てくるでしょう。
【4】季節の変化
1年を通して、ICT支援員はずっと同じ仕事を毎日するわけではありません。学期ごとに指導内容は変わりますし、学校行事などの都合も関係するため、季節ごとに必要な支援は変わります。そのため、計画的にスキルアップを図らなければ求められた際にスキルが追いつかないことがあります。
ICT支援員にどのような支援をしてほしいか、訪問前に教育委員会だけで決めるのではなく、各学校の状況などを管理職や情報担当、そして先生方から聞き取ったり、訪問の初期はICT支援員自身に校内を観察してもらったりしてください。そして、まず先生方とはなるべくコミュニケーションをとって、担当する学校がどのようなところなのかを理解する時間を確保すると、ICT支援員はうまく機能できるでしょう。
ここからは、各校種の違いを踏まえたICT機器とその活用の状況について考えながら、「ICT支援員に何を依頼するか」を整理していきたいと思います。公立・私立や、それ以外にも各校の事情によって、細かい部分はもちろん異なりますので、それぞれ置き換えながら考えてみてください。
小学校における支援の重要ポイント
まずICT支援員が理解すべきことは、小学校の多くが「クラス担任制」であるという点です。同じ学年で複数のクラスがあれば、基本的に同じ単元を学習します。能力別クラスなどがなく、また特に意図していなければ、同学年の全クラスが同様の進度で授業を進めるのが一般的です。ICT活用もなるべくクラスごとに差が出過ぎないよう、情報の風通しをよくすることが大切です。
ひとつのクラスで実施した支援はほかのクラスのヒントになるかもしれません。ICT支援員には、支援の内容をシンプルにわかりやすくまとめておくこと、定期的に学校に報告することを伝えてください。
授業支援を依頼する際のコツ
特に小学校の場合、ICT支援員は先生やサポートスタッフと同様、机間を巡回して児童の端末操作の助言や授業自体の進行をサポートすることが多くなります。
「調べたものの読めない漢字がある」「先生の指示したことがわからなくなった」といった声に応えるだけでなく、実技教科では児童の作業をサポートすることもICT支援員の仕事のひとつです。
授業支援前、各クラスの先生はICT支援員と1分でもいいので打ち合わせをしておくと、うまく連携できるでしょう。そして、打ち合わせでは以下を共有しておきましょう。
- 支援してもらう授業の教科と本時のめあて
- 使う予定のICT機器・アプリ
- 指導上やってほしくないこと
- 先生がICTに関して心配なことがあれば
- 気にしてほしい児童がいる場合、対応方法など
特に小学校の授業支援は児童と直接関わるため、児童への対応の仕方は打ち合わせの際にきちんと伝えておくとよいでしょう。人手が必要となるシーンも多いという点が小学校の特徴です。意識を合わせて支援してもらえると非常に効果的です。
クラス担任制であるため、先生によって消極的な方は活用が遅れてしまうことも懸念されます。管理職の方は、それぞれの先生方へ活用を促していただくと同時に、ICT支援員を頼ってみることをすすめていただくとよいでしょう。