「働くママ」として新しい時代の働き方を考える
2017年12月10日、渋谷でロフトワークが運営するオープンコミュニティスペース「loftwork COOOP10」にて、ナラティブベース主催「働くママ × テクノロジー 人工知能と共存する未来の『はたらく』を考えよう」が開催された。受付開始とともに続々とやってくる参加者は、働きながら子育て中という20代後半から40代のワーキングマザーがほとんど。中にはベビーカーを押す人の姿も見受けられる。
「テレビの特集を見て気になり、自分の仕事にどのような影響があるのか知りたくなった」「社会の未来予測は多いけど、実際に子どもにどんな情報を与えればいいのか不安」と、動機はさまざまながら、いずれも近い将来に訪れるであろう「働き方の変化」に対する不安があるようだ。
主催者であるナラティブベース代表の江頭春可氏は、あえて「働くママ」に向けたイベントを企画したことについて、「働き方を考え、語る上で、ワーキングマザーという同質性は効果的だと感じました」と話す。
「私自身もその一人ですが、働くママは常に『未来の働き方』を強く意識してきたと思うのです。まだまだ女性は結婚や出産などのタイミングによって、描いた未来図を更新せざるを得ないことが多いし、会社や地域など社会構造もどんどん変わっています。さらに、自分のこと以上に子どもの将来を考える機会が多く、今持っている常識が通じなくなりつつあることを肌で感じているのではないでしょうか」
AIを含めたテクノロジーが社会環境を変え、働き方も大きく変化していく時代、個人の事情に社会の変化を掛け合わせながら、自分にとって幸せな「未来の働き方」を考えることが重要になる。環境の変化に対応するとともに自ら「どう働きたいか」を考え続け、次世代のことも考えざるを得ない「働くママ」が敏感であろうことは想像に難くない。
「とはいえ、今にせよ未来せよ、一人でモヤモヤと考えがち。でも、みんな同じ課題感を持っているし、その上でさまざまな人の考え方や価値観に触れてこそ、自分が求めるもの見えてくるのではないでしょうか。特に女性はそうした傾向があるのではないかと。そこでAIに関する基礎知識をインプットした上で、それぞれの不安や期待を含め、いろいろな意見が交換できる場を作りたかったんです」
AI研究のスペシャリスト・丸山不二夫氏が登壇
第一部で登場したのは、情報共有コミュニティ 「マルレク」を主宰し、AI研究のスペシャリストでありながら、IT業界では各種コミュニティの組織者としても知られる丸山不二夫氏。稚内北星学園大学学長、早稲田大学大学院情報生産システム研究科客員教授などを歴任し、長年にわたりIT教育に携わってきた。
丸山氏は「人工知能ができること、 わたしたちができること」と題し、事前に参加者から募った質問の中から特に多かったものに答える形で、講義を行った。
まず「AIって何? どんなふうに進化してきたんですか」という質問に対しては、チェスや将棋、囲碁などでAIが人間に勝利してきたエピソードを踏まえ、機械が学習して能力を高めるものであり、どんどん賢くなってきていると解説。さらに、画像認識技術やボイスアシスタントシステムなど、人間の持つ眼・耳・口といった感覚機能の代替・拡張への可能性と同時に、現在の技術の限界が語られた。また感覚器だけでなく、自動運転機能やロボットなど機械が自律的に動く事例も多数紹介された。
続く「今のAIは、具体的にどんな技術なのですか?」については、機械学習技術、ボイス(パーソナル)・アシスタンス・システム、ディープ・ラーニング、自然言語理解、論理的な推論能力の5つの潮流が紹介され、それぞれ詳しく説明された。
そして「どうして今、こんなに注目されているのですか?」の問いに対しては、人間の能力の置き換えを5段階に分類し、「これまでも徐々に進化してきたものの、『ニューラルネットワーク』の登場で飛躍的に進化したため」と説明。これまでは「詰め込み型」で賢くなっていたAIが、ネットワークにつながることで判断の精度を上げることができるようになった。つまり、百科事典を頭に入れて照らし合わせて判断していたものを、対象のルールなどを見極めて判断するという形に変わったからというわけだ。
また、このニューラルネットワークの発展形として、プログラムを介さないで学べる「非言語的コントロール」や大規模・高性能システムで学んだことをモバイルのような小規模なシステムでも実行できる「学習・実行の非対称性」などが紹介された。
近年のAIの進化に感嘆しつつ、「まだまだAIは人間にはかなわないんですね」といった安堵の声が参加者から漏れる中、「ずばり、AIにできないことはなんですか!」の質問へと移行。丸山氏はあえて端的な答えは出さず、機械学習に不可欠な正確なインプットデータ作りに必要な「感度のセンサー」と「直感的な判断」の難しさを解説した。
そして最も参加者の関心が高い「わたしたちの、子どもの未来の生活はどう変わるの?」の質問に対しては、次のように語った。
「労働現場で、機械やロボットに代替可能な肉体的な労働と技能に基づく熟練労働が減り、誰が行っても同じ効果が求められる定型的なルーティン・ワークが増大する傾向にあります。これらの没個性的な労働の一部あるいは全部が、いずれはコンピューターや機械に代替されるかもしれないという不安は、情報化社会に生きる人間意識を深いところで規定していくでしょう」
誰もが感じている不安について肯定しながらも、「それは今に始まったわけではない」とし、車や電話など既に人間社会において人間の役割を一部代替している現実から「『落とし所』をつけていくでしょう」と予測。しかしながら、過渡期において経済的な格差が増大する可能性も示唆した。
また、近い将来に、機械が人間の能力を超えるという「シンギュラリティ」については懐疑的な見方を示し、「確かに、いくつかの分野では機械の能力が人間の能力を既にはるかに超えています。また、個人としての人間の能力を、個体あるいはネットワーク総体としての機械の知性が上回ることはあるかもしれません。ただ、それを可能とのするのは人間であり、機械の能力は人間の能力の1つの現れに他ならないと考えています。その意味で、遠い未来の予言はできませんが、人間と機械の『共生』関係は長く続くと考えています」と語った。