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小児がんについて親と教師が知っておいたほうがよいこと――社会へ小児がんサバイバーへの理解を広めるために

若年性のがんについて教育者や周囲の人たちが知っておきたいこと 第1回

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 年間100万人を超えると言われるがん罹患者数の中では0.25%と、希少がんともいえる存在の「小児がん」。そのため、患者の子どもたち自身、ご家族はもちろん、彼らを取り巻く学校関係者や友人等にも十分な情報はありません。また、つらい治療を終えて社会に戻った子どもたちには、その後も長期のフォローアップが必要です。治療中、治療後も安心して就学ができるように学校関係者や保護者が知っておくべきことについて、NPO法人「キャンサーネットジャパン」理事の中井美穂が、小児がん専門医にインタビュー。第1回は北海道大学大学院医学研究院小児科学教室・真部 淳教授にお話をうかがいました。

中井美穂氏(左)と、真部淳教授(右)
中井美穂氏(左)と、真部淳教授(右)

小児がんとは? 大人のがんとの違い

中井美穂(以下、中井):私は20年前に腹膜炎を患いまして、その際に人工肛門で1年間過ごす経験をしたのですが、それ以降、何か少しでも医療に関することで世の中に貢献したく2年前からNPO法人キャンサーネットジャパンの理事を務めさせていただいています。理事になってからこれまでは消化器系のがんなど、比較的よく知られているがんに関するセミナーのお手伝いをさせていただくことが多かったのですが、9月は「世界小児がん啓発月間」ということもあり、小児がんについて基本的なことから教えていただきたいと思います。

 まず、大人のがんと、小児のがんでの大きな違いはどのような点がありますでしょうか?

真部 淳教授(以下、真部):がん罹患者の数は成人では年間100万人くらいなのですが、小児の場合は2000~3000人です。また、成人がかかるがんの種類は、ある程度集中しています。消化器系の胃がん、大腸がんや、肺がん、乳がん、前立腺がんなど。皆さんもそういった病名はお聞きになったことがあると思います。一方、小児がんにはどのようなものがあるか、ほとんどの方はご存じないと思います。

中井:私は「小児がん」という病名があるものだと思い込んでいたのですが、考えてみれば「大人がん」という病気はないわけで。「小児がん」は総称ということだと思いますが、どのような病名がその中に含まれているのでしょうか?

真部:一番多いのは白血病、半分くらいはこの病気だといってよいでしょう。白血病は血液のがんです。血液は流れていて塊は作らないのですが、これに対して塊を作る腫瘍は固形腫瘍と呼ばれます。固形腫瘍にもいろいろな種類があります。それぞれ、後ほど説明しますね。

中井:小児の白血病は、どのような病気なのでしょうか?

真部:白血病は「造血組織のがん」です。「血液のがん」「骨髄のがん」とも言われていますが、血液は全身の骨の中で作られているからですね。

 成人の白血病との違いは、薬で治るタイプが大半だということです。成人の場合は、骨髄移植が必要なケース、または治らない場合も多いのです。

中井:小児の固形腫瘍についてはどのような種類がありますか?

真部:小児の固形腫瘍には、脳腫瘍、神経芽腫(がしゅ)、ウイルムス腫瘍、網膜芽腫、横紋筋肉腫、胚細胞腫瘍など、さまざまなものがあります。この中で一番多いのは脳腫瘍です。脳腫瘍は大人にもありますが、子どものほうが、割合としては多いですね。脳腫瘍はさらに細かく分類されるのですが、小児の場合は大人にはない「ずい芽腫」が多かったり、大脳より小脳の腫瘍が多かったりなど、特徴があります。

中井:小児のがんは本当にいろいろな種類があるのですね。それぞれに専門医がいらっしゃるのでしょうか?

真部:大人がんには、それぞれの専門医がいるのですが、小児がんの場合は全体の患者数が少ないこともあり、全部まとめて小児がん専門医が診ています。私も小児がん専門医ですが、内科的な治療から骨髄移植の処置まで、幅広く担当しています。

中井 美穂(なかい みほ)

 日本大学芸術学部を卒業後、フジテレビに入社。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」など多くの番組に出演。フジテレビ退社後、97 年から「世界陸上」のメインキャスターを務める他、映画・演劇のコラム、イベントの司会、朗読など幅広く活躍。 2019年NPO 法人キャンサーネットジャパン理事に就任。がん啓発のイベント・市民公開講座の司会などの活動をしている。

小児がんに気づくには? 疑わしいときの対処方法

中井:成人のがんは、定期的な健康診断などで発見されることが多いと思いますが、小児がんの場合はそうもいかないと思います。学校関係者や保護者が、子どもたちの異変に気づく手がかりはありますか?

真部:脳腫瘍だったら嘔吐や痙攣、神経芽腫だったらお腹がすごく腫れる、白血病なら鼻血がいつまでも止まらない、などがありますが、それだけで判断するのは難しいでしょうね。

中井:年齢別に発症しやすい傾向などはあるのでしょうか?

真部:1歳以下に多いのは網膜、肝臓、交感神経、腎臓などの芽腫ですね。成長の過程で、成熟した臓器になる予定の元のものが芽腫です。若い細胞が分化せず、そのまま残ってがん化するのですね。胎児性腫瘍は明らかに1歳以下が多いです。

 いっぽう、白血病については、大人は骨髄性の白血病が多いのですが、小児の場合は急性リンパ性白血病が最多です。リンパ球という免疫細胞が増える、免疫が発達するときに起こりやすいのです。ちょうど1~5歳くらい、予防接種を集中して行う時期に発症することが多いです。

 骨肉腫は骨が伸びるときに多いですね。つまり成長期、思春期です。中高生はスポーツを積極的にしている方も多いのですが、練習をしていれば色んなところが痛くなる。ところが、特にまじめな子は我慢強くて病院に行かないんです。行くとしても、最初はご自宅から近い接骨院やスポーツマッサージに行くことが多い。そうすると、すぐには分からない。最初に整形外科に行ってレントゲンを撮ってくれれば、すぐに分かるのですが。

中井:中高生の場合、スポーツで転んだとか打ったとか、原因が明らかでない痛みについては、まずは整形外科で診てもらったほうがいい、ということですね。

真部:そうですね。まずは整形外科に行ってください。骨肉腫の疑いがあれば、すぐに小児科に連携してくれるはずです。骨肉腫以外でも、気になることがあれば血液検査で分かりますから、とにかく病院へ行ってください。例えばアメリカでは医療費用が高いことから白血病の発見遅れが多いのですが、日本は幸いなことに国民皆保険で、特に小児は自治体により補助が出ているところも多いので、通院の負担は比較的少ないと思います。

中井:大人のがんでは遺伝が原因という話をよく聞きますが、小児がんも遺伝的、後天的要素はあるのでしょうか?

真部:全体の患者数が少ないので、小児がんになる原因はようやく少しだけ分かってきた、という段階です。例えば採血して遺伝子を調べると、小児がんの8~9%は遺伝性腫瘍であることが分かってきました。一方、両親からではなく、本人から始まる新規発生遺伝子変異(デノボ)というケースもあります。片方ではなく、両方の目が芽腫になる場合は遺伝的要素が大きいとか。ただ、大半は分からない、というのが事実で、人類全体に起こる突然変異がその人にたまたま起こるとしか言えません。

真部 淳(まなべ あつし)

 日立市生まれ。1985年北海道大学医学部卒業。聖路加国際病院で研修後、ローマ・カトリック大学とSt. Jude小児病院(米国メンフィス)、東京大学医科学研究所で小児血液腫瘍学の研究を行う。聖路加国際病院小児科医長ののち、2019年から現職。趣味クラシック音楽の鑑賞と演奏とちょっぴり作曲。


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著者プロフィール

  • 特定非営利活動法人キャンサーネットジャパン(キャンサーネットジャパン)

    1991年発足。がん患者が本人の意思に基づき治療に臨むことができるように科学的根拠に基づく情報発信を行うことをミッションとして活動。2001年にNPO法人化。活動を通して、がんと向き合う人々が自分らしくがんと向き合える社会を実現することを目指している。2014年より毎年開催しているジャパンキャンサー...

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