EdTechZine(エドテックジン)

学習目的・対象者別

課題解決型学習や探究学習を成功させるため、教師が意識すべきこととは? 戸田市教育長 戸ヶ﨑氏に聞く

戸田市教育委員会 教育長 戸ヶ﨑勤氏&株式会社Inspire High 代表取締役 杉浦太一氏対談【後編】

  • ブックマーク
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2021/08/06 07:00

 「子どもたちに本物との出会いの機会をつくりたい」。教科教育とエビデンスに基づく教育施策、ICTを活用した学び、課題解決型学習(PBL)を柱に、先進的な教育改革「戸田市SEEPプロジェクト」に取り組む埼玉県戸田市では、21世紀型スキル等の育成に向け、世界のさまざまなガイドの話を聞き、答えのない問題を考え合うプログラム「Inspire High」を導入した。前編に引き続き、戸田市教育委員会の教育長である戸ヶ﨑勤氏と、Inspire High 代表取締役の杉浦太一氏の対談を通して、Society 5.0時代に求められる教育と、その柱となる課題解決型学習や探究学習で重要なポイントを探っていく。

戸田市教育委員会 教育長 戸ヶ﨑勤氏(左)、株式会社Inspire High 代表取締役 杉浦太一氏(右)
戸田市教育委員会 教育長 戸ヶ﨑勤氏(左)、株式会社Inspire High 代表取締役 杉浦太一氏(右)

 前編では戸田市の教育改革「戸田市SEEPプロジェクト」の概要や、同市がInspire Highを導入したきっかけについてお話しいただいた。後編では、実際にInspire Highの授業を行った事例とともに、現場の先生の声をお届けする。

Inspire Highでポジティブなアウトプットが生まれた

戸ヶ﨑氏(以下敬称略):戸田市では産官学との連携による「戸田市SEEPプロジェクト」のもと、2021年度の春より戸田市立喜沢小学校と喜沢中学校の2校をモデル校として、Inspire Highを導入しています。

 今回は、喜沢小学校の5年生の総合的な学習の時間に行った事例をご紹介します。5年生の2クラスで、探究学習としてInspire Highを使った授業を実施しました。

Inspire Highでは、台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン氏をはじめ、世界中のさまざまな人々の話を聞くことができる
Inspire Highでは、台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン氏をはじめ、世界中のさまざまな人々の話を聞くことができる

杉浦氏(以下敬称略):授業では、これまでにInspire Highがライブで行ったセッションを授業向けに教材化した動画の中から、学びの目的に合ったものを選んでいただきました。

戸ヶ﨑:小学校では45分、中学・高校では50分の授業時間内で終わる設計で、動画視聴の「ガイドトーク」、ガイドからの正解のない問いを探究する「アウトプット」、アウトプットへの「フィードバック」という3つで構成されています。

中学・高校におけるInspire Highの授業例
中学・高校におけるInspire Highの授業例

 実際に授業を行った教師によると、特に小学校においてはいくつかの事前準備が必要でした。まず、Inspire Highの授業を通して、大切にしたいこと、児童に身につけさせたいことを教師が明確にしなければいけません。それに合ったガイド(ゲスト)の動画を選択し、発達段階によっては児童へ事前にガイドを紹介したり、アウトプットする際の材料を準備したりする必要がありました。

 例えば、詩人の谷川俊太郎さんの動画を見る前には、事前に「谷川俊太郎さんはどのような人か」を子どもたちと調べました。また、アウトプットのテーマが「自分についての詩をつくってみよう」だったため、「自分はどのような人間なんだろう」ということを、脳内マップなどをつくって取り組みました。

谷川俊太郎氏の動画を見る前に行った事前準備
谷川俊太郎氏の動画を見る前に行った事前準備

 子どもたちは、国語の教科書にも出てくる有名な谷川俊太郎さんのお話をとても楽しみにしていて、当日はメモを取りながら熱心に聞いていました。

 そして「自己紹介の詩をつくる」というアウトプットでは、事前に自分のことを見つめる時間を取っていたことで、時間内にたくさんのポジティブなアウトプットを行い、フィードバックをし合うことができました。

杉浦:素晴らしいですね。Inspire Highでは「評価なし、正解なし」「フィードバックは贈りもの」ということを大切なカルチャーとして、実施前にオリエンテーションを通してお伝えしています。

戸ヶ﨑:その事前アナウンスがあったおかげで、非常に良いフィードバックがたくさんありましたね。もともと喜沢小学校は「ポジティブな声がけをしよう」をモットーにしていたため、子どもたちも慣れている土壌がありました。そうした心理的な安全性があったからこそ、良いアウトプットやフィードバックが実現したのかもしれません。

他校・他学年とのコラボで自分の問いにフィードバックをもらう

杉浦:第2回の授業で、中学生とオンラインでつながった取り組みも興味深かったです。

戸ヶ﨑:第2回では田村淳さんによる「学ぶって大事なこと?」の動画を視聴しました。テレビとは違う田村さんの意外な一面を知ることができ、子どもたちは大変驚いていました。

 千葉県市川市にある昭和学院中学校の1年生とオンラインでつないで同じ動画を視聴し、その後アウトプットやフィードバックをし合いました。学校を越えたコラボは子どもたちにとって中学生の意見に触れるとても貴重な機会でもあり、時間を忘れるくらい夢中になっていたようです。「自分だけの問いを見つけよう」というアウトプットの時間では、「日ごろ何気なく思っている『問い』を言葉にするのが楽しかった」という感想もありました。

喜沢小学校でのInspire Highの授業。昭和学院中学校の1年生とオンラインでつなぎ、遠隔授業を行った
喜沢小学校でのInspire Highの授業。昭和学院中学校の1年生とオンラインでつなぎ、遠隔授業を行った

 最も盛り上がったのは、フィードバックをもらえた瞬間です。例えば「介護関係の仕事をやりたいけど、どうすればいいんだろう」という喜沢小の児童の問いに、昭和学院中の生徒から「実際に現場へ行って聞いてくるといいかも!」というフィードバックをもらった児童は「確かに! 何で思いつかなかったんだ」と感動していました。まさに自分の一歩を後押ししてもらった、インスパイアされた瞬間だったと思います。


  • ブックマーク
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

バックナンバー(最新順)

連載:キーパーソンインタビュー

もっと読む

著者プロフィール

  • 相川 いずみ(アイカワ イズミ)

     教育ライター/編集者。パソコン週刊誌の編集を経て、現在はフリーランスとして、プログラミング教育やICT教育、中学受験、スマートトイ、育児などの分野を中心に、取材・執筆を行っている。また、渋谷区こどもテーブル「みらい区」を発足し、地域の子ども達に向けたプログラミング体験教室などを開催している。一児の...

  • 森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

    EdTechZine編集部所属。映像系美大生、組み込み系ソフトウェアエンジニアを経て2016年10月に翔泳社へ入社。好きな色は青色全般。

おすすめ記事

All contents copyright © 2017 Shoeisha Co., Ltd. All rights reserved. ver.1.0