社会的損失を引き起こす「ジェンダーギャップ」
――まず、日本のIT分野におけるジェンダーギャップの現状についてお聞かせいただけますか。
田中氏(以下敬称略):IT分野では世界的にジェンダーギャップが生じており、とりわけ日本は女性のエンジニアの割合が20.4%(2019年版 情報サービス産業 基本統計調査)と低い状況です。とは言え、実際に採用しようにも市場にスキルを持った人が少ないのも事実。そうした状況を改善するには、大学教育と、その手前の文理選択を行う中学・高校での教育が重要であり、ITへの関心を高められる環境づくりが不可欠です。興味関心がある人数が増えてこそ、エンジニアとして活躍する人が増えてくると考えています。
そもそもITだけでなく、これまで理系分野で活躍する女性が少なかったことは、大きな社会損失と言えます。例えば、女性の視点が抜け落ちていたことで、シートベルトの開発現場で妊婦への配慮や安全性が置き去りになったり、女性音声のAIアシスタントが多いゆえに女性への命令口調が当然のように思われたり、過去の教師データを使った採用AIが女性差別をしてしまったり、事例は山ほど見つかります。作り手のジェンダーバイアス(社会的・文化的な性差に対する差別や偏見)がそのまま技術や製品に反映されているのです。
ベネット氏(以下敬称略):田中さんがおっしゃることはLenovoでも大きな課題とされています。日本が特に遅れているとは言え、女性のエンジニアの比率はG7参加国でもようやく平均3割というところですから(Women in Work Index 2020)。世界シェア1位のPCメーカーであるLenovoでも、女性社員の割合は36%、エンジニアに限ると26.4%で、レノボ・ジャパンにおいては、日本の多くのIT企業と同様に全体で16%、エンジニアは1割にも満たない状況です。
しかし現在、PCユーザーの半数は女性です。開発プロセスにエンジニアとして女性が関わらなければ、ニーズにフィットした製品が開発できないでしょう。Lenovoだけでなく、世界的な問題であることは明白です。
田中:日本ほどではないとは言え、海外でも「女性はITが苦手」という偏見やジェンダーギャップがあることは、否めなさそうですね。
ベネット:残念ながらまだまだありますね。実際に、学校でITやエンジニアリングについて学ぶ女性に対する根強いジェンダーバイアスは残っています。女子は文系、男子は数学や物理などの理系が得意というイメージがいまだにありますし、日本と傾向は大きく変わりません。ただし、「その理由として保護者や先生が無意識に誘導していたことが大きかった」という気づきや理解が浸透しつつあり、その反省によって10年ほど前から少しずつ考え方や対応が変わってきました。
背景には、ITやPCが「ニッチでオタクな趣味」といった見方から「社会的・産業的にも欠かせないテクノロジー」へと変化し、重要性に対する認識が深まったことがあると思います。ですから、欧米のほとんどの学校ではプログラミングは必修科目であり、必然的に女性も進路の1つとして認識できる環境が整いつつあります。
田中:10年前まで世界各国で似たような状況だったものの、日本だけ牛歩のように感じます。欧米の大学では情報関連学部の女性比率について、10年前は10%以下が普通とされていたことが、現在は約20%となり、中には50%に近い学校もいくつか出てきています。しかし、日本は過去30年来15%前後を行ったり来たり(文部科学省 令和元年度学校基本調査)……是正するためのポジティブアクションが必要だと感じています。