ICTをAEDにしないために、機械の得意なことを知る
新型コロナウイルスの感染拡大により進んだかに見えた教育におけるICTの活用。だが緊急事態宣言の解除に伴い多くの学校は再開。「対面に戻ったところがほとんど」と竹内氏は指摘する。
その理由として「ICTは遠隔性の要素があるが、成績の向上に遠隔性は関係ないという認識があるからではないか」と竹内氏。「このままいくと、せっかく整備された端末はAEDのように緊急事態時用になり、うまくICTが活用されていかないのではないか」と危機感をあらわにした。
では、遠隔授業以外に教育現場でICTをどう活用できるのか――。特に、成績向上の観点でいかに有効活用できるのか。竹内氏の結論は「学習の定着のフェーズにおいて活用できる」だ。
その結論に至った竹内氏の分析と洞察を見てみよう。竹内氏は機械と人間の得意/不得意を以下のように整理。
- 機械は記憶が得意
- 認識は現時点では人間が得意
- 推論も人間が得意
そして、成績を上げるための学習の過程を「理解(わかる)」「定着(できる)」「活用(使える)」の3段階に分類し、それぞれのフェーズで機械を活用できる可能性について持論を説明した。
なお、竹内氏はここで使う言葉の定義として「『成績の向上』とは、テストの点数を上げることを意味し、『機械』はICT全般を指している」と説明。そのうち、人間からの指示が明確になく機械が予期予測をする性質を有する状態を「AI的」と定めている。
成績向上の3ステップ――理解・定着・活用
「理解(=わかる)」「定着(=できる)」「活用(=使える)」を分数の学習に例えると、「分数の計算手順を説明できる」「分数の計算を素早く行う」「初見の問題で分数を使おうと思いつく」となる。「『理解』が『定着』につながるにはスピードが、「定着」が「活用」につながるにはひらめきが必要」というのが竹内氏の分析だ。ただ、英単語、漢字、計算などは「定着」が重要で、理解、活用、ひらめきはあまり必要ない一方で、初見の問題については活用が重要になるなど、習得内容により重要なポイントが異なる点も説明した。
では「理解」の過程を機械は支援できるのだろうか。竹内氏は「分からなかったことが分かるようになるために必要なのは、例え話。知っている事柄に置き換えて説明を受ける必要がある」と述べる。そうした上で、ここでの手助けは機械よりも人間の方が得意だと考えを示した。
次の過程となる「定着」。「定着している状態とは(その学習内容が)“できる”状態。できる状態とは、理解がある前提で、それに加えてスピードが必要」と竹内氏。
竹内氏は定着で欠かせないものとして「記憶」を挙げる。記憶と聞くと苦手意識のある人も多そうだが、竹内氏は「記憶すること自体は苦しくないが、量が増えてくると管理のコストが増す。ここが人間が苦手に感じる原因なのではないか」と述べながら、長期記憶について2011年の海外の調査結果(Jeffrey D. Karpicke, Janell R. Blunt "Retrieval Practice Produces More Learning than Elaborative Studying with Concept Mapping")を紹介した。
調査では、科学に関する文章を学習対象に生徒を、(1)一定期間読むだけ、(2)繰り返し読む、(3)読む+概念図を作る、(4)読む+テスト、の4グループに分けた。1週間後に行ったテストで、元の文章にそのまま載っているものを問う問題では(4)(2)(3)(1)の順にスコアが高かったという。推論が必要な問題でも、(4)が最も高スコアだった。
しかし、学習後に学習者自身による評価(学習者がそれぞれの方法でどのくらい効果を実感したか)をしてもらったところ、(2)が高く、(4)は最も低い結果になった。
「生徒が好きな方法で覚えてよいとした場合は繰り返し読む行為をとる可能性が高いが、長期記憶化の点では解いて覚えた方がよい」と竹内氏。
そして、記憶に付きまとう「苦しさの原因の1つに、間違った方法を使っている可能性がある」と指摘した。