パソコンメーカーであるレノボが教育に注力する理由
シンポジウムの冒頭、レノボ・ジャパンの代表取締役社長 デビット・ベネット氏が、同社におけるSTEAM教育の取り組みを紹介した。
レノボは「Smarter Technology for All」をモットーとし、テクノロジーによって働き方や学び方を変革し、世界のさまざまな問題解決に取り組む企業だ。教育分野においては、世界市場で最も多く教育向けパソコンを出荷しているほか、インドやブラジルといった発展途上国の高校を積極的に支援している。これはSDGsの目標の1つ「質の高い教育をみんなに」の実現に「デジタル・ディバイド(ITを扱う得意不得意によって生じる格差)」の解消が欠かせないと考えているからだ。
また、同社はSTEAM教育推進のため、慈善団体であるLenovo Foundationを設立し、イベント開催や教育団体の支援などを行い、「2025年までに世界で500万人の子どもたちがSTEAM教育に触れる」という目標を掲げ、活動している。
なぜレノボは教育に注力しているのか。その理由には同社設立の経緯が関係している。レノボは中国とアメリカの企業が合わさり誕生した企業だ。ベネット氏は「バックグラウンドが異なる多様性のあるチームでディスカッションすることにより、ビジネスが成長することを自分たちが経験してきた。そして、多様性のある人材育成のためには、すべての人に質の高い教育が必要だ」と語る。
では、日本においてより質の高い教育を行い、優秀なテクノロジー人材を育成するためには何が必要なのだろうか。ゲストである立崎さんが高校生であることから、ベネット氏は高校におけるICT教育の課題を3つ挙げた。
1つは高校におけるパソコンが不足していること。GIGAスクール構想により小中学校では1人1台端末が整備されているが、高校への配備はこれからだ。2つ目は「ICTで何を学ぶか」ということ。ベネット氏は「丸暗記ではなく、もっと探究する力を身に身につけてほしい」とした。3つ目はパソコンのスキルだ。今後、入試などでもCBT(Computer Based Testing、コンピューター上で行う試験)の活用が予想される。大学受験で必要となる以上、パソコンを扱うリテラシーの習得は避けて通れない。
そしてベネット氏は自らのパートの締めくくりとして、「学校や民間がいかに連携して次世代の人材を育成するか。今日はこれらの課題解決に向けてディスカッションしていきたい」と述べた。
幼少期からSTEAMに親しみ、世界大会で活躍する高校生!
続いて、渋谷教育学園幕張高等学校の1年生 立崎乃衣さんが自己紹介を行った。立崎さんは中高生による国際ロボコンチーム「SAKURA Tempesta(サクラ テンペスタ)」に中学1年生から所属し、現在はハードウェアのリーダーを務めている。また、2020年4月の緊急事態宣言下には、独力で3Dプリンターを活用し800個のフェイスシールドを製作。医療現場を支援した。
このように学校外で目を見張る活動を行う立崎さん。なぜこうした活躍ができているのか。その理由として「私が小さいころから受けていたSTEAM教育の存在が大きい」と話す。中でも印象的なエピソードは、立崎さんが6カ月のときに家庭用のドリルドライバーをお父さんからプレゼントされたことだ。幼いころから工具に囲まれた環境で育った立崎さんは、小学校3年生でプログラミングやロボット制作を開始し、これまでに13台のロボットを作ってきた。
「SAKURA Tempestaでは、学校や家だけでは学べないさまざまな経験をしている」と立崎さん。世界最大規模のロボコン「FIRST Robotics Competition(FRC)」にも出場し、チームの活動に必要な資金も自分たちで調達しているという。FRCはロボットの技術だけでなく、社会で活躍する人材育成にも重点を置く大会で、SAKURA Tempestaも多くの人にエンジニアリングを学ぶ機会を提供するべく、子どもや中高生向けのワークショップを多数開催している。その活動が認められ、FRCで最高権威の賞と言われるChairman's Awardを2年連続で受賞した。
こうした自らの体験から、立崎さんは「日本では技術の進化のスピードに人材育成が追いついていないことが課題で、世界からもかなりの遅れをとっている。STEAM教育の普及には幼少期からの環境が重要。家庭と学校、民間が連携し、すべての人がSTEAM教育を受けられるよう、社会全体で取り組む必要があると思う」と語った。機会を設けることで、子どもたちはSTEAMなどのさまざまな分野に興味を持つことができ、将来の選択肢も増えていく。