日本STEM教育学会とは?
シンポジウムは「日本STEM教育学会(以下、JSTEM)」幹事らによる基調講演と、パネルディスカッションの2部構成となっており、基調講演には、日本学術振興会 理事長である安西祐一郎氏(JSTEM幹事・顧問)、ICT CONNECT21 会長 赤堀侃司氏(JSTEM幹事・顧問)、国立科学博物館 副館長 佐藤保紀氏が登壇した。パネルディスカッションは、安西氏と赤堀氏に加え、放送大学教授 中川一史氏(JSTEM幹事・副会長)、特定非営利活動法人 CANVAS 理事長の石戸奈々子氏(JSTEM幹事)、教育テスト研究センター 谷内正裕氏(JSTEM幹事)らが参加し、ファシリテーターを教育テスト研究センター 理事長である新井健一氏(JSTEM幹事・会長)が務めた。
新井氏は、冒頭のあいさつでJSTEM設立の趣旨を次のように語った。
「科学技術の発展に伴い、グローバルではこれからの社会に必要な資質や能力としてSTEM教育に力を入れる国が増えています。その広がりは理数系にとどまらず芸術や人文科学にも広がるほどで、日本では小学校でのプログラミング教育が必修化となりSTEM教育への注目がさらに高まっています。しかし、STEM教育について学術的な視点で調査研究を行う学会がまだありませんでした。日本STEM教育学会では、STEM教育の目的、意義、必要なスキルとそれを支える学術体系をSIG(分科会)を通じて研究し、実際に活用できるカリキュラム、事例、コンテンツといった実践への落とし込みを行っていきます」(新井氏)
AI時代の必須スキルに関係するSTEM教育
続く安西氏による基調講演は、日本が抱える課題や問題とSTEM教育の関係性を説く内容だった。
これまでの日本は系列会社や下請け構造など、家族的な関係が強い企業を中心とした社会をベースに文化や技術を発展させてきた。しかしグローバルでは、AIやロボットなどオープンイノベーションを取り入れたベンチャー企業に代表される、柔軟な企業構造を持つ社会が一般的だ。安西氏は「日本型の企業社会をもっと柔軟性のあるものにし、グローバルな企業構造、文化にしていく必要があります」とした。
「経済産業省は、新産業構造ビジョンの中で2030年までのさまざまな職業における構造の変化を予想しています。就業構造、つまり人々の仕事が変わるなら、必要な教育も変わっていかなければなりません。必要なのは新しい課題を自らこなす能力や新しいシステムを作る能力です。従来型の学習から、協働学習や主体的・創造的な学びが求められています。現在行われている総合的な学習の時間は、総合的な探求の時間として変革されていくでしょう」(安西氏)
こうした問題に対処するため、安西氏は、大学の入試改革や初等教育でのプログラミング教育必修化など、教育改革が必要であると話した。そして、協働作業や課題克服といったスキルを育てるSTEM教育が大いに関係あるとした。
新しい課題をこなしたり新しいしくみを作ったりするのは、答えが用意されていない課題に取り組むということだ。そのためには「現実の問題」に対応する能力であり、現実を対象に、その機能や構造を理解する能力が必要とされる。また、論旨明確な思考と、それを他の人間と共有したうえで一緒に作業することも重要だ。
現実の対象を理解するということは、複雑・あいまい・観測困難なものを理解するということで、課題解決には、まず問題を正しく設定する必要もある。解決まではつらくても、仲間と楽しく学ぶことも大切だ。
STEM教育では、実践やハンズオンを重視し、身近な問題や素材を教材とする。それをグループで議論しながら試行錯誤を繰り返すことが多い。「STEM教育は、まさにこれからの時代に必要なスキルを育てるものです」と安西氏は力説した。