人生100年時代の学校のあり方とは?
――昨年度から、新渡戸文化学園に魅力的な先生がどんどん集まっていらっしゃいますね。現在行われている教育改革や、根底にある方針とも大いに関係があるかと思います。まずは平岩さんと山本先生が新渡戸文化学園に携われたきっかけから教えていただけますか。
平岩国泰氏(以下敬称略):新渡戸文化学園の理事長を務める平岩です。もともとは一般企業に勤めていましたが、子どもたちへの貢献をライフワークにできないかと考え、小学生の放課後を支えるNPO法人を設立しました。2011年に新渡戸文化学園内のアフタースクール開校に携わったのがきっかけで、その後、理事を経て2019年に理事長に就任させていただきました。
山本崇雄教諭(以下敬称略):私は新渡戸文化学園で統括校長補佐を担っています。25年にわたり都立高校で英語科の教員を務めており、2019年度に着任しました。本校では多様な働き方を認めてもらえるので、週1回、横浜創英中学・高等学校の教育アドバイザーを務めているほか、複数の企業でも活動し、平岩理事長いわく「二刀流」で主に中学校の教育改革を中心に進めています。
――お2人が中心となり、新渡戸文化学園の教育改革を行っているとお聞きしています。最初はどのようなきっかけがあったのでしょうか。
平岩:新しい時代の学校のあり方というものは、教育に関わる人々全員が常に考えていて、私たちだけが先鋭的にやっているわけではありません。どの学校も目の前の生徒に向き合いながら、一生懸命に追求しています。
そもそも「学校とは何のためにあるのか」という定義に正解はありません。ただ、ひとつの大きな答えは「児童生徒がしあわせな人生を描くためにある」ことでしょう。目の前の受験や進学も大切ではありますが、それだけではなく、もっと先の「人生100年時代」に対して、学校は一体何ができるかを考えていました。そして、山本先生たちと出会ったことで、目指す学校像がクリアになり、教育シンボルをつくりはじめました。
自分も他人もしあわせにする「Happiness Creator」
――新渡戸文化学園の教育シンボルについて詳しく教えてください。
平岩:「Happiness Creator(ハピネスクリエイター)」です。山本先生と一緒につくった概念で、「自分も他人もしあわせにできる力を創造する」ことを目標に、一生この力を持ち続けられる人を育てていきたいと考えています。
そして、学校がこの目標に対して何ができるかを考えたところ、「自律型学習者」の育成にたどり着きました。子どもたち自身が自分のあるべき姿を考え、常に自ら学習する人を生み出すということです。基本的な部分は山本先生が構想した上で当時のメンバー全員でまとめていき、2019年の春にスタートしました。
――山本先生が着任されたことでこうしたシンボルができたということですが、平岩さんもご自身も変革に向けたビジョンをお持ちだったかと思います。
平岩:私自身は、理事長になった際の所信表明で「全ての主語を子どもたちにしたい」ということを最初に話しました。もともと、学校の「~させる」という言葉に違和感を抱いていました。「学ばせる」「並ばせる」といった言葉は、全て大人が主語なのです。
せっかく、学校という安全な場所で、失敗したりチャンレンジしたりするチャンスがあるのに、大人が何でもやってしまうことで、子どもたちの成長のチャンスを奪っている。日本の子どもは失敗しないかもしれないけど、将来チャレンジできない人になってしまうのは、もったいないと感じていました。また、教育は弱いところを直す短所矯正に偏りがちですが、個々の長所にこそ注目したいですね。
ほかにも、先生が憧れの大人であってほしいと常々思っています。先生はもっと自由に、1人の人間としてしあわせな人生を歩んでほしいのです。そして、子どもたちにはそれを見て「大人っていいな」と感じてもらいたいですね。学校と社会が隔絶されていることも、日本の教育の弱点のひとつです。学校に縛り付けられる働き方ではなく、山本先生のように多様で魅力的な働き方をどんどんしてほしいと考えています。そうした方が先生になってくれれば、学校もまた魅力的な場所になっていくと思っています。