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学校運営にはビジネス的な思考が必要だ――改革の鍵となる4つの視点とは?

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2019/08/05 07:00

 社会全体の少子高齢化が進む中で、学校運営にも今までとは全く異なる視点やかじ取りが求められるようになってきた。地方を中心に定員割れも起きつつある一方で、ドラスティックに変革を行うことで、志願率や偏差値を飛躍的に高めることに成功した学校も存在する。そこではいったい何が起きているのか。これからの学校運営にはどのような視点・実践が必要なのか。岡山龍谷高等学校や武蔵野大学などの学校改革に関わり、アクティブ・ラーニングの実践的導入でも知られる学校法人淳和学園(岡山龍谷高等学校)専務理事の中村好孝氏にお話を伺った。

岡山龍谷高等学校 専務理事、学校法人武蔵野大学 理事長特別補佐 中村好孝氏
岡山龍谷高等学校 専務理事、学校法人武蔵野大学 理事長特別補佐 中村好孝氏

教育の本質を見いだし、子どもたちのやる気を引き出す

――中村先生は、岡山県笠岡市にある岡山龍谷高等学校で運営改革に取り組み、約5年間で志願者約5倍、偏差値+20以上へ上昇させた立役者として教育界で知られています。どのような経緯で立て直しを行われたのでしょうか。

 私が勤務しはじめた2005年ごろ、前身である黎明高等学校の評判はあまり良いものではありませんでした。先生職員も努力していましたが成果が出ず、学校に残念なレッテルが貼られるようになり、生徒たちも「そういうものだ」と思うようになっていたのです。中にはがんばっている生徒もいたものの、全員が前向きになれるような雰囲気ではありませんでした。

 一度ついたイメージを覆すことはとても難しいことです。周囲以上に、学校に関わる当人が無意識のうちに染まってしまいます。イメージにもとづいて、子どもや親は入学後に受けられるであろう恩恵を見いだし、「3年後はきっとこうなるかもしれない」という期待を込めて学校を選びます。つまり、学校を変えるには、期待を生み出せるような状況を作り出さなければいけなかったのです。

 かと言って生徒たちを無理に勉強させれば一足飛びに進学校になれるものではありません。そこで私たちが掲げた目標は「卒業後、社会でいきいきと活躍する人を育てる」というものでした。

 実際に在校生を観察すると、中学校での成績は5段階評価で言えば3や2レベル。さらに勉強以外についても運動や文化活動で大きな成功体験を持っている生徒はほとんどいませんでした。成績が良い子どもは「やればできる」と自己肯定感が強い傾向にあると言われますが、当校の生徒たちは成績が良くないことで自己評価が大きく下がっているのだと感じました。

 そこで私たちが考えたのが、勉強以外でも「活躍する機会」をたくさん設けることでした。つまり、成功体験をたくさん得られるような学校にしたいと考えたのです。

――具体的にはどのようなことを行われたのですか。

 まず、大学を目指したい生徒のために「特進コース」を作り、それ以外にも「調理・製菓系」「福祉・保育系」というように細分化し、授業においても座学だけでなく、コンテストや体験などさまざまな学びの機会を数多く設けました。

 例えば、小学校で絵本の読み聞かせをする体験授業があるのですが、子どもたちの楽しそうな反応に感激して、もっと喜んでもらおうとさまざまな工夫をするようになります。そうした成功体験から教育者への夢が生まれ、苦手だった勉強に熱心に取り組むようになった生徒もいました。

 さらに2007年ごろから、高校に「龍谷リベラルアーツ」という講座を設けました。答えのない問題にどう取り組んでいくか、自分が自分らしく生きるためにはどうしたらいいのか、物事の本質的なことを考える力を育む取り組みです。そこでの成果については、もちろん校内での発表も行いますが、関西学院大学 総合政策学部の学生たちが日頃の研究成果を発表する「リサーチ・フェア」に参加し、大学生に混じって毎年発表させてもらっています。「高校生が意外とやるじゃないか」と評判で、ちょっと下駄を履かせてもらっているかもしれませんが、4度ほど賞をとっているんですよ。

 授業を越えた試みとしては、2009年より全国の龍谷総合学園グループの高校生を対象にした「龍谷アドバンストプロジェクト」をスタートさせました。各学校を代表して200名ほどの生徒たちが龍谷大学に集まり、「仏教」「経営」「法学」の3つのテーマの中から取り組みたい課題や疑問を調査し、大勢の前でプレゼンテーションを行うというものです。

 こうした体験的・問題解決的な学習については、文部科学省が2002年度より「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」として支援していたり、近年ではPBL(Problem Based Learning:問題にもとづく学習)の効果が注目されたり、さまざまな切り口で論じられています。でも、そのずっと前から当校では取り組んできているんですよと自慢したいです(笑)。もちろん国が示す教育の方向性も意識はしていますが、私たちの場合はそれ以上に目の前にいる生徒たちの学びの課題に向き合うことが重要だったのです。

 こうしたさまざまな取り組みで一番変わったのは、生徒たちに自信が生まれたことです。成功体験ができる機会がたくさんあれば、全員が一度は「できた!」という感動を得ることができます。それは他のことへのやる気にもつながっていることが実感できました。成功体験を持つ生徒たちの割合が増えると、勉強への取り組み方にも変化が現れ、5年間で約20ポイントも偏差値が上がる結果につながったのです。さらに校内に活気が出て、特に厳しく指導しなくても自然に生徒たちの方から目を合わせてあいさつするようになってきたんですよ。


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著者プロフィール

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

  • 森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

    2016年10月に翔泳社へ入社し、CodeZine編集部へ配属。2017年4月からはEdTechZineの編集も兼任。前職は組み込み系ソフトウェアエンジニア。

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