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EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

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先進事例紹介(オンライン授業)

コロナ禍に全授業のオンライン化で「学びを止めない」を実践したグロービスの知見

 新型コロナウイルス感染症をきっかけに、多くの教育機関でオンライン授業への関心が高まっています。本稿では、3月の時点で、いち早く授業の完全オンライン化に踏み切った「グロービス経営大学院」の研究科長である田久保善彦さんに、その背景や得られた知見などを伺いました。(編集部)

コロナ禍を機に完全オンライン化に踏み切ったグロービス経営大学院

 2020年早春、世界中へ急速に拡散した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、教育の現場にも甚大な影響を与えた。非常に強い感染力を持ったウイルスによる被害を食い止めるため「外出自粛」「3密(密閉、密集、密接)の回避」が求められ、学生を教室に集めることを前提としていた多くの教育機関は授業の休止を余儀なくされた。現在も第2波、第3波の感染拡大に対する懸念が消えない中、教室での授業再開に伴うリスクを避けるため、授業の「オンライン化」を急ぐ組織もある。

 そうした中、今年3月の段階において、授業の「完全オンライン化」に踏み切ったのが、全国5か所のキャンパスに2000名以上の学生を抱える社会人向けビジネススクール「グロービス経営大学院」だ。グロービスでは、教室での授業を全面的にオンラインへと移行する際に、どのようなプロセスをとったのか。また、3か月以上にわたりオンライン授業を展開する中で見えてきたメリットや課題は何かについて、学校法人グロービス経営大学院で常務理事兼研究科長を務める田久保善彦氏に聞いた。

田久保善彦(たくぼ・よしひこ)氏

 グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長。学校法人グロービス経営大学院 常務理事。

 慶應義塾大学理工学部卒業、学士(工学)、修士(工学)、博士(学術)。スイスIMD PEDコース修了。三菱総合研究所を経て現職。経済同友会幹事、経済同友会・規制制度改革委員会副委員長(2019年度)、ベンチャー企業社外取締役、顧問等も務める。

全国で2000名以上の社会人が通う未来指向のビジネススクール

――グロービス経営大学院の概要をご紹介ください。

田久保:グロービス経営大学院(以下、グロービス)は、2006年に構造改革特区制度を利用して設立された専門職大学院です。できるだけ多くのビジネスパーソンに、良質な経営教育を施したいという理念のもと、現在、東京、大阪、名古屋、仙台、福岡の5つキャンパスに加えて、一部の科目を受講できる特設キャンパスを水戸、横浜、シンガポールに設けています。また、2015年からは、オンラインでの受講だけでMBAを取得できるオンラインMBAプログラムの提供も始め、現在はこれらのキャンパスに2000名を越える学生が在籍しています。

 グロービスの学生はすべて社会人なので、授業は平日の夜間や土日に開講されており、2~3年かけてMBA(Master of Business Administration、経営学修士)を取得します。

――グロービスのカリキュラム特徴・学生プロファイルはどのようなものですか。

田久保:お陰様でグロービスは入学者数が伸び続けていますが、2006年の開校以来ずっと1クラスあたりの定員を35名としており、少人数制の授業を続けています。通学・オンラインともに1科目は、3時間の授業を隔週で6回受講しますので、3か月で修了となります。ちなみにグロービスのオンライン授業はあらかじめ録画しておいたコンテンツをオンデマンドで流す形式ではありません。教室での授業と同様に、学生同士のグループワークやペアワーク、クラス全体でのディスカッションを中心に進みます。自らの頭で考え意見を出し、教員や学生との議論を繰り返す過程があるからこそ、得た知識を実務で活かすために必要な深く考え抜く力を養うことができるのです。

 学生のプロファイルをご紹介します。まず男女比ですが、ここ5年くらいの間は女性比率がコンスタントに25%ほどになっています。また、最近の傾向としては、エンジニア、プログラマー、デザイナーといった専門性が高い職域の学生が増えています。エキスパートとしての仕事を広げていく上で、経営者を含むビジネスサイドとの相互理解が重要という認識が広がっているのではないかと思います。ちなみに、グロービスでは以前から、医師や看護師、薬剤師、理学療法士、会計士、税理士、プロスポーツ選手といったプロフェッショナル職の学生も常時在籍しており、多様性に富むコミュニティになっています。

2015年から提供していたオンライン授業のノウハウを数日で全授業に展開

――グロービスでは、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な社会問題となり始めた2020年3月に、キャンパスでの授業をやめ、全面的にオンライン授業へ切り替えたと伺っています。具体的には、どのように作業を進められたのでしょうか。

田久保:先ほどお話したようにグロービスでは、オンラインMBAプログラムを2015年から提供しています。コロナが社会問題化する以前に、全科目の98%を教室でのディスカッション中心の授業形式でオンラインでも提供できる状態にしていましたので、オンライン授業のノウハウは充分に持っていました。

 今年の3月、学生や教員、事務局スタッフをコロナの驚異から守るために、これまで全国のキャンパスで行っていた教室での授業をやめ、全面的にオンライン授業へと切り替えることを決定しました。

 教室で行っていたすべての授業をオンラインに切り替えるための要した時間はわずか3日ほどでした。オンライン授業を提供するノウハウを持っていたとはいえ、オンライン授業を担当したことがある教員や事務局スタッフは一部だけ。また、オンライン授業は教員や事務局スタッフだけでなく、学生側にもツール操作のリテラシーが求められます。他にも、授業をデリバリーするためのデバイスやモニター、音声機器などの確保やセッティング、オンライン授業で利用していたZoomのライセンス契約やセキュリティ問題など、乗り越えなければならない課題は山積みでした。急な決定だったので、教員や学生、事務局スタッフなどすべてのステークホルダーにかなりの戸惑いが生じたと思います。

――機材やツールの準備以外に課題はありましたか。

田久保:科目によっては、オンライン授業に向かないものがあります。例えば「ビジネス・プレゼンテーション」という科目は、実際に人前に立ってプレゼンを行うというトレーニングが数回含まれています。プレゼン後に教員や学生からフィードバックしてもらうのですが、オンライン上だと姿勢や身振り手振り、目線などのチェックは限定的になってしまいます。なので、フィードバック項目を限定する、オンライン上でのプレゼンのポイントを追加するなどの修正を行いました。

 あわせて、これまで教室での授業しかやったことのない教員に対して、オンライン授業を進める上での留意点を伝えたり、オンライン授業を受けたことがない学生に「どのように受講すれば、多くの学びを得られるのか」といったノウハウを伝えたりしました。

――決断から3日での全面移行となると、現場のオペレーション負荷もかなり高かったと思います。それについては、どのように対応したのでしょうか。

田久保:数日で全面オンライン化を進められたのは、他の学校と異なりグロービス特有の事情があると思っています。私自身が教壇に立っている現役の教員であると同時に、学校経営サイドの責任者も兼ねており、意思決定を迅速に進められる体制であったことが大きく影響していると思います。

田久保氏が登壇している授業風景
田久保氏が登壇している授業風景

 3月というのは、一部の学生にとっては卒業できるかどうかが決まる重要な時期です。もし、教員の中に、オンライン授業への対応が難しい人がいたら担当教員を変更してでもオンライン化を断行する方針でしたが、結果的には、すべての教員がオンライン化に柔軟に対応してくれて大きな問題もなく遂行できたと感じています。

次のページ
オンライン授業に対する「食わず嫌い」を払拭

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この記事の著者

斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)

株式会社翔泳社 ProductZine編集長。 1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


柴田 克己(シバタ カツミ)

フリーのライター・編集者。1995年に「PC WEEK日本版」の編集記者としてIT業界入り。以後、インターネット情報誌、ゲーム誌、ビジネス誌、ZDNet Japan、CNET Japanといったウェブメディアなどの製作に携わり、現在に至る。 現在、プログラミングは趣味レベルでたしなむ。最近書いてい...

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