筆者の私は普段スペイン・バルセロナに拠点を置いているが、昨年デジタルと音楽教育についてレポートした。ポルトガルを訪れ、今年も引き続き2月から3月にかけて取材を行っていた間にスペインの状況が悪化し、ポルトガルに残ることを選び、現在まで滞在している。
他の南欧諸国と比べて、早い段階で非常事態宣言を出し、被害が少なかったポルトガルは5月4日に非常事態宣言を解除して段階的正常化のプロセスに進んでいる。ポルトガルにおけるパンデミックが比較的穏やかに収束しようとしていることには様々な要因が考えられるが、この異常事態に際して学校教育もできる限りの役割を果たそうとしている。
ポルトガルでは4月20日から教育番組がテレビ放送とオンラインでの配信が開始され、その他にも保健局によって用意された子ども向けのCOVID-19に関する情報が充実したWebサイトなど、子どものためになる遠隔教育のためのコンテンツが行政・公教育の側から短期間で準備された。
今回は思いがけず滞在を延長したポルトガルを中心に、南欧各地から届いた休校中の教育の実態についての声も含め、レポートしたい。
本稿の主なポイント
- ポルトガルを始め南欧諸国では3月始めから休校が始まり、すでに各学校でオンラインでの遠隔教育が始まっている
- ポルトガルでは4月20日からテレビによる全国放送とオンラインで教育番組の配信が開始
- 新型コロナウイルスについての正しい知識や見方を身につけるための子ども向けWebサイトがポルトガル保健局によって用意されている
急ごしらえだが、南欧各地の学校ほとんどで遠隔教育は始められている
私はこれまでイタリアとスペインに住んだことがあり、現在滞在中のポルトガルに加えてイタリアとスペインに子どもがいる友人知人たちがいる。彼らに連絡を取り、ロックダウン下でどのような教育が行われているかを尋ねた。10人弱から回答をもらったが、私立・公立問わず、ほぼ全員の学校で何らかの形でオンラインでの遠隔教育が始められていた。
国・地域や学年にもよって違うが、授業管理を行うためのポータルサイト(Google ClassroomやSeesaw、その他ポルトガルの出版社によるEscola Virtualなど)が多くの学校で利用され、課題の配布・提出が行われている。最初はメールやWhatsAppのようなメッセンジャーツールで画像や動画データも含めてやり取りしていた学校もあったそうだが、やはりファイルサイズの問題ややり取りの煩雑さから、結局は教育用のWebサービスを利用する形になったという。
ビデオチャットでの授業に関しても、どういったプラットフォームを選択するかは保護者や教育者にとって関心事で、例えばZoomによるビデオチャットを用いる場合にはそのセキュリティ問題を心配されたという。学校によっては、事前にZoomを利用するための承諾書をメールで提出させられるところもあった。
幼稚園や低学年では毎日1~2時間の活動が行われているところが多い。それ以外の学年では学校によっては通常の時間割通りに朝から数時間オンラインで指定された学習活動を行い、週1、2日ビデオチャットでの授業を行うというところが多い。必ずしも授業は対面授業を意識させるようなものではなく、動画なしで進められる学習活動も多いという。
開始時期については、4月始めのイースター休み明け後に始まったところが多いようだ。しかし、あるイタリアの田舎の学校では保護者に「オンラインクラスのために朝の8時から服を来て化粧をするのが嫌だから」という理由で拒否されたという事例も1件あった。まれに保護者や指導者の意向でオンライン学習を用いず、学校から持ち帰った課題のみでの在宅学習となるケースもあるようだ。
地域や教師のITスキルによって活動内容に大きな違いがあるようだが、以前からEdTechを導入していたわけでもなく、今回の事態を受けて初めてGoogleのサービスやZoomといったすでに一般に広く使われているオンラインツールを導入し、やれる範囲でやれることをやっているようだ。
そして、家庭でのPCやモバイル機器の所有率は日本とそれほど変わらないが、ネット接続環境や通信用デバイスがない家庭には政府や地方自治体からサポートが行われているという。