編集部より
記事末尾にて講演の模様を動画で紹介しています。ぜひご覧ください。
教えず、子どもたち自身に気付かせる
幼児から楽しめるプログラミング言語として人気の「ビスケット」は、現在は3000校以上の小学校に採用されている。原田氏によると、認知度もかなりアップしていて、現在は1日の作品の保存数が約1万2000件にも及ぶという。
講演はまず入門編として、ビスケットの特徴が理解できるデモからスタートした。
ビスケットを子どもたちに教える際のこだわりとして、原田氏は「大人が結果を見せずに、子どもたちが自分でやって、その結果を自分の画面で確認することを大切にしている」と話す。
「教えるときは、『こうすると、どうなるでしょうか』でいったん止めて、結果は見せず、子どもは自分の席で実際にやってみる。プログラミングした結果が初めて動くのは、子どもたちのタブレット上であることが大切」(原田氏)
さらに原田氏は、ビスケットで風車を回転させるデモを披露し、「回転の技を覚えた後は、棒を回転させていくときれいな模様になっていく。『コンピューターは正確に繰り返すのが得意なので、正確に並べると正確に動く』ことを伝えられる」と説明した。
しかし、「いつまでも動かし続けると、模様としては『やり過ぎ』てしまう。人間は『きれい』や『楽しい』『面白い』といったことを感じるのが得意だけれど、コンピューターにはわからない」と続ける。そして、「この模様の授業は、コンピューターが得意なところと、人間が得意なところのちょうど境界線上にあり、それを簡単に感じることができる」と、小学校の授業での活用を勧めた。
また、別のデモでは複数のメガネツールを使い、卵が割れて中からヒヨコが飛び出して動く作品を披露。「メガネが1個のときは、卵に触れると割れてヒヨコが生まれる。2個だと生まれたヒヨコが動く。3個だと卵が動く。増やしていくと、どんどん複雑になっていくが、実は1個ずつのメガネの動きはすごく単純」とし、「一つひとつの仕組みは簡単だとしても、それらを増やして組み合わせると本当にすごいものができる」と解説した。
粘土とプログラミングは似ている!?
次に語られたのが、ビスケットの開発に至るまでの原田氏の興味関心だ。
幼少期、粘土遊びが好きだったという原田氏。中学生時代には電子工作に没頭し、高専でプログラミングと出会う。そして大学からコンピューターのプログラミング言語研究の道へと進んだ。
「粘土遊びは、遊んでいるうちに作りたいものが明確になっていく点がプログラミングに似ている。中学生のころは、テレビやコンピューターの基板を安く手に入れて部品を取り出し、雑誌に載っていた回路を見よう見まねで作っていた」(原田氏)
その後、高専に進んだ原田氏は、コンピューターで数字を打ち込むと動きが変わるプログラムを体験。「『コンピューターって、粘土みたいだなぁ』と感じた。それ以前にやっていた電子工作は粘土の感じがしなかった。でも、コンピューターは電子工作の面倒くささがなく『すごい』というのが最初の印象」と、当時を振り返る。
大学では、C言語を使い、自ら「Laplas(ラプラス)」というプログラミング言語を開発。博士課程ではプログラミングを簡単にする研究に打ち込むことになる。
しかし原田氏は当時の教授に「いつまでも人間がプログラムを書く時代じゃない。これからはコンピューターにどうやってプログラムを作らせるかが大事だ」と指摘されることになる。そうアドバイスをしたのは、人工知能などの研究を行っている北海道大学の赤間清氏で、「赤間先生の『人間が読んでわかるのではなく、コンピューターが読んでわかるものを作っていきなさい』という言葉が、ずっと私の頭の中にあった」と語る。