クリエイティビティでイノベーションを生み出す「IDEO」とは
シリコンバレー発の世界的デザインファームである「IDEO」。もとはプロダクトデザインに始まり、現在はプロダクトやサービスのデザインのみならず、多くの有名企業の組織変革や新規事業創出を支援するデザインコンサルティング会社として知られている。
5カ国9オフィスで働く約750名のほぼ全員がデザイナーと呼ばれ、いずれも文化的にもキャリア的にも非常に多様なバックグラウンドをもつ。日本の拠点であるIDEO Tokyoには約40名が所属するが、そのうち日本人は野々村健一氏を含めてわずか約10名。約120社ほどの顧客リストには、日本を代表する大企業の名前が並ぶ。
そうした実績とともに有名なのは、40年間にわたって提唱してきた「デザインシンキング」に基づくアプローチだろう。「デザインシンキング」はごくシンプルな考え方である。ビジネスやテクノロジーについて考える前に「人間」に立ち戻って考える、「人間中心であること」がすべての基本となる。日本では「人間=お客さま」と捉えがちだが、IDEOでは作り手自身も含めたあらゆる人を中心としている。そして、この“人間”がどのような未来を思い描くのか、それを実現するためにどのようなテクノロジーが必要か、どのようなビジネスにすべきか。それらを考えてバランスし、重なり合うところにイノベーションがあるというわけだ。
それでは実際に、IDEOはどのような活動を行っているのか。活動の範囲は多岐にわたり、フォードと「新しい移動体験」を考えたり、JAXAと「空が移動や生活の場となる未来」の可能性をデザインしたり、ロサンゼルスでは「新しい投票システム」のアイデアを提案したりしているという。デザインの対象は、ほかにもキッチンや衣類、自転車のサドルもあれば、組織や社会システムであることもある。デザインシンキングの活用範囲が広いからでもあるが、同時に世の中で新しいものを創り出すニーズが非常に広がっていると言えるだろう。
教育の分野では、スタンフォード大学の機関「Hasso Plattner Institute of Design」、通称「d.school」が有名だろう。IDEOの創業者であるデビット・ケリーは「d.school」の創設者の1人であり、現在もIDEOから講師を派遣するなどさまざまなコラボレーションが行われている。
またグローバルでは教育関係のプロジェクトも続々と増えており、Googleとコーディングを勉強するためのツールを開発したり、サンフランシスコの公立高校で食堂体験をデザインしたり、教師向けのサポートサービスも手掛けている。
その中で野々村氏は、IDEOが手掛けてきた教育関係のプロジェクトの中でも特にインパクトが大きかったと思われる事例として、「ペルーにおける学校創設」を紹介した。もともとこのプロジェクトは、ペルーのインターバンクの頭取であるパストール氏がペルーの教育の未来を憂えて学校チェーンを購入し、IDEOに要請があったことがきっかけだという。
コンセプト設計からスケッチに始まり、教育モデルとしてグループ&ソロラーニングのバランス、学校の空間、教師のレベルアップのための施策など、1年間にわたって数々の課題に立ち向かうことになった。空間デザインはもちろん、先生たちによる授業づくりとそのオンライン共有など、さまざまな施策を実現し、目標である120校うちの54校が開校し、中南米で最も大きな私立校になりつつある。スコアについても3~4倍になるなど、スタート地点が低かったこともあるが、大きなインパクトを創出することができたという。