MIT生まれのプログラミング環境、Scratchとは?
Scratchは、2007年にアメリカのMIT メディアラボが発表した子ども向けのプログラミング環境だ。ブロック化したプログラムパーツをドラッグ&ドロップの操作で直感的にプログラミングできることが特徴で、テキストをタイプしてコードを書く必要がない。今や、こうしたブロック型のビジュアルプログラミング言語は子ども向けプログラミングの世界ではスタンダードとなったが、Scratchは、この方式を広める大きなきっかけを作ったと言えるだろう。
Scratch 2018 Tokyoの実行委員長で青山学院大学客員教授の阿部和広氏によれば、日本のScratch登録ユーザー数はこの1年で約1.7倍になる勢いで伸び、現在33万4710人に達しているという。Scratchは、目下次期バージョン3.0の開発が大詰めで、すでにベータ版が公開されており、来年1月には正式リリースされる予定だ。
今回は、そのScratchの開発者であるMIT メディアラボのミッチェル・レズニック教授による基調講演のポイントと、教授自らが行った次期バージョンのデモをレポートする。
Scratchで子どもたちが学んでいることは何か
レズニック教授は今回の来日で、Scratchで作品づくりをする日本の子どもたちと交流したことを紹介し、子どもたちがScratchを通して習得しているのは、決して技術的なスキルだけではないことを3つのキーワードをあげて示した。
Reason Systematically(系統立てて論理的思考をする)
子どもたちは、Scratchで作品を作るときにアイディアをシンプルな手順に分解して、系統立てて論理的に考えている。こうした問題解決能力が役立つのはもちろんだが、これ以上のことをScratchを通して習得しているとして、続く2つの要素を加えた。
Think Creatively(創造的に思考する)
子どもたちがScratchで作る作品はさまざまで、皆自分のアイディアを形にしている。全員が同じ問題に回答するようなトレーニングをしているのではなく、自分の関心があるプロジェクトをモチベーションを持って作り上げ、発信している。
Work Collaboratively(協業して取り組む)
子どもたちは、個別にプロジェクトを作って終わりにするのではなく、お互いの作品に対して質問し合い、アイディアをシェアしている。Scratchには公開当時からオンラインコミュニティが開設されていて、ユーザー同士で学び合う経験を重視している。
世界は今までにないスピードで変化していて、子どもたちが予測不能な終わりのない変化の流れに直面するのは明らかだ。「変化し続ける不確実な社会では、これら3つの力がますます重視されます。将来プロのプログラマーになるかどうかは問題ではなく、ほかの仕事でも求められる力です」とレズニック教授は指摘した。
レズニック教授の考える、AI時代を生きる子どもたちに必要とされる力
さらに、変化を受け入れ創造的で革新的なアプローチを考えられるかどうかが成功や幸せを左右するとして、特に重要な「創造的な思考(Think Creatively)」に言及した。
「AI時代では決まったタスクは機械がやるようになり、創造的に考えられることが社会に貢献できる力となります。これを子どもたちにとって困難な課題だと捉えるよりも、より人間らしく創造的に思考する、いい機会だと私は考えています。これからの時代、創造的思考ができることは、経済的な成功だけでなく、喜びに満ち有意義な人生を送ることにつながります」
では、どうしたらこの力を培うことができるのだろうか。ここで、子どもたちが創造的思考を育む助けになる原則が示された。レズニック教授がMITでの研究を通して定義した4つのPから始まるキーワード、「Projects(プロジェクト)」「Play(遊び)」「Peers(仲間)」「Passion(情熱)」だ。