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EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

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つくることで学ぶ「STEM教育」のはなし

子どもたちが継続して「STEM」に取り組むため、必要なこととは? 年齢に合わせて進化する教育プログラム「FIRST」の紹介

つくることで学ぶ「STEM教育」のはなし 番外編


 最近メディアで「STEM教育」という言葉を目にする機会が増えてきました。子どもたちに興味を持ってもらうため、さまざまな取り組みが実施されていますが、継続的に学んでもらうための枠組みは不足しているように思います。そこで今回は、STEM教育スクール「STEMON(ステモン)」の教材開発リーダーである筆者が、アメリカで設立されたSTEM教育のプログラム「FIRST」を紹介します。日本におけるSTEM教育のヒントにもなり得るはずです。

はじめに

 2020年の小学校プログラミング必修化にともない、プログラミングやロボティクスといったSTEM教育の熱が高まっています。産官一緒に「プログラミングやロボティクスは楽しいよ! みんな、始めようよ」と旗を振っています。そして私もその1人です。

 しかし、心配に思うことがあります。

 子どもたちが「プログラミングやロボティクス、最初は楽しかったけど、飽きちゃった」と言いはしないかと。プログラミングやロボティクスを楽しく学び始めた後はどうなるのでしょう。飽きないように次々と新しい楽しみを提供し続けなければならないのでしょうか?

 例えば、野球。野球を楽しいから始めたという子どもたちでも挫折を感じたり、厳しい練習についていけなくなったりといった理由で野球を辞めたいと思うことがあるでしょう。それでも多くの中学校、高校には野球部があり、一定の子どもたちが野球を続けています。子どもたちは苦難に直面しても野球を辞めません。なぜでしょうか?

 理由はいろいろあると思います。思いつくままに書き出してみました。

  • 年齢に合った大会があり、活躍の場がある
  • 活躍すれば、高校・大学進学に有利になる
  • 就職に有利になる
  • 地域の中に熱心な指導者がいる
  • あこがれのプロ野球チームがある
  • 観戦する楽しみがある

 確かにプログラミングコンテストやロボット競技会、数学オリンピックなど、STEM分野でも野球のようにコンテストや競技会はあります。しかし、年齢・能力に合わせ段階的に取り組むことで子どもの成長を促すコンテストや競技会ではないように思われます。STEM教育にも楽しく始めた後、野球のように長く続けられる枠組みがあると良いのではないかと考えます。

STEM教育のプログラム「FIRST」

 実はこのヒントとなる教育プログラムがあります。それは「FIRST」の教育プログラムです。この教育プログラムはSTEM分野のプログラムでありながら、スポーツのような青少年を育成する枠組みを備えています。

2018 FIRST Championship
2018 FIRST Championship

 FIRSTは、正式には「For Inspiration and Recognition of Science and Technology」といいます。青少年のSTEM分野への興味をかき立て、STEMに関する活動への参加を促すことを目的に、非営利団体として1989年にアメリカで設立されました。FIRSTは、STEM分野の教育とその道に進もうと希望する、青少年のための革新的な教育プログラムを用意しています。

 FIRSTの教育プログラムは、以下の4つからなります。FIRSTのプログラムの入り口は、レゴ社の協力を得て子どもたちの興味を引くように設計されています。

FLL Jr.(FIRST LEGO League Jr.)

  • 対象年齢:6歳~10歳
  • 2017-2018シーズン登録:1万4000チーム以上(8万6000人)
内容

 参加者は動くレゴモデルとポスターを使って、調べたことや新しく発見したことを発表します。また、FLL Jr.のコアバリューを学び、お互いを尊敬し、話し合いながらチームワークを育てていきます。

FLL(FIRST LEGO League)

  • 対象年齢:9歳~16歳
  • 2017-2018シーズン登録:3万5200 チーム(28万人以上、約90カ国)
内容

 競技は、自律型ロボットで2分30秒の間にミッションの攻略を目指す「ロボットゲーム」とプロジェクト、ロボットデザイン、コアバリューの「プレゼンテーション」で構成されます。プロジェクトプレゼンテーションでは毎年大会から出されるテーマに対し研究活動を行い、チームごとに専門家の前で問題解決策を発表します。

 参加者が科学技術に親しみながらチームで取り組むFLLの活動は、プログラミング教育とアクティブ・ラーニングを実践し、21世紀型スキルを身につけるのに適した教育プログラムです。

FTC(FIRST Tech Challenge)

  • 対象年齢:12歳~18歳
  • 2017-2018シーズン登録:5900チーム(5万9000人以上)
内容

 参加者はロボットの設計や組み立て、プログラミングを行い、アライアンス形式でロボットを対戦させる課題に挑戦します。コーチ・メンターの指導を受けることにより、STEMスキルを身につけ、工学の基本を実践します。

 資金調達のため、チームが行うチームブランドのデザインやマーケティング、コミュニティアウトリーチは評価され、ロボットだけでなくこれらも受賞対象となります。参加者は大学の奨学金を手にするチャンスがあります。

FRC(FIRST Robotics Competition)

  • 対象年齢:14歳~18歳
  • 2017-2018シーズン登録:3650チーム(9万1000人以上)
内容

 FTC同様、参加者はロボットの組み立てやプログラミングを行い、アライアンス形式でロボットを対戦させる課題に挑戦します。FRCでは50kgを超えるような本格的なロボットを制作します。その上、ルールの分析からロボットの完成までを6週間で行わなければなりません。

 FTCと同様、ロボットやアウトリーチなどが評価され、それに加えチームで取り組む安全教育についても評価されます。安全教育は企業活動においても重要視される項目であり、より実社会に則した内容が求められています。参加者は大学の奨学金を手にするチャンスがあります。

 私は長らくFLLのメンターとして、この教育プログラムに関わってきました。その間、指導してきたチームが日本代表として4度の国際大会に出場し、2012年の「FLL World Festival」と2016年の「Asia-Pacific Open Championship」では総合優勝を果たしました。そして今年4月にデトロイトで開催された「FIRST Championship」にFRCチーム「SAKURA Tempesta」のメンターとして参加しました。結果的にFLLとFRC、2つのカテゴリのメンターを務めるという幸運に恵まれました。

 FLLとFRCのメンターを経験し、かつ世界大会に出場したことより、FIRSTの教育プログラムがスポーツと同じような枠組みであることを目の当たりにしました。

 例えば、

  • 年齢に合った大会(プログラム)が用意されている
  • 活躍すれば、大学進学・就職に有利になる
  • 地域の企業・団体の技術者から直接指導を受けることができる
  • 地域の中に熱心な指導者がいる
  • NASAなど、子どもたちのあこがれる組織がスポンサーについている
  • 観戦する楽しみがある

です。

 それでは上で挙げた例について、FLLとFRCの活動を通して経験したこと、出場した世界大会で目にしたことから、実際のエピソードを交えつつ紹介したいと思います。

次のページ
年齢に合った大会(プログラム)が用意されている

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この記事の著者

河本 敏志(STEM教育スクール STEMON)(カワモト サトシ)

 2010年4月、任意団体ithinkplusを立ち上げ、地域の子どもたちと国際ロボット科学競技会(FIRST LEGO League、以下FLL)に出場することで、ロボティクス・プログラミングのみならず自然科学分野について興味を持たせ、日本国内のみならず国際的に通用する科学研究報告書の書き方・発表...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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