教員不足の解決は、先生たちが「自分を大切にできる」社会から
──改めて伺います。サステナブルに働ける学校現場をつくるためには何が必要なのでしょうか。
制度が整うことはもちろん大切ですが、それだけでは教員不足は根本的には変わりません。これから必要なのは「先生が自分の幸せを後回しにしなくていい社会」をつくることだと思っています。
キャリアの多様性が認められ、 不安やモヤモヤを安心して語れる場所があり、そして自分なりの納得と選択ができる環境。こうした土壌が整わなければ、制度の効果も十分に発揮されないままになってしまうからです。
──社会全体の意識改革が必要だということですね。
そうです。これは学校だけの課題ではありません。行政、医療、福祉──いわゆる「誰かを支える仕事」に就く人たちに共通する問題でもあります。一般的には「エッセンシャルワーカー」と呼ばれますが、私はその言葉に少し違和感を持っていました。もっと日常的で、その人の姿を正しく表す言葉として辿り着いたのが、「支えるひと」という言葉です。
私自身、2019年に学校現場に深く入ったことで大きな気づきがありました。朝から夕方まで子どもと向き合い、保護者と向き合い、授業準備も事務もこなす先生方の姿を見て、心から尊敬の念が湧きました。同時に、「自分は社会を支えるひとたちに支えられて働いてきたのだ」と痛感したんです。
だからこそ、彼らが自分の人生を犠牲にせず働ける社会でなければいけない。その思いで、クジラボは「支えるひとをささえる」というビジョンを掲げています。
──では、支えるひとが「自分を後回しにしなくていい社会」に近づくためには、どうしたらいいのでしょうか?
まず必要なのは「キャリアを考えることは悪いことではない」という文化の醸成です。働き方を選べること。不安やモヤモヤを誰かに相談できること。自分の価値観に合った道を選べること。こうしたことが当たり前にできるだけで、自分の人生も大切にしやすくなります。
そして何より伝えたいのは、自分を大切にすることは、子どもや他人を大切にすることと矛盾しないということです。むしろ、支えるひとが満たされている状態のほうが、よい教育も、よい福祉も、よい医療も生まれていくでしょう。「支えるひとをささえる」視点が社会に浸透すれば、学校も、そして社会全体も、もっとしなやかで持続可能な場所になっていくはずです。

さいごに
「未来の学校現場考──教員のサステナブルな働き方を考える」シリーズ、いかがでしたでしょうか。このシリーズを通して改めて浮かび上がってきたのは、どんなに制度が整っても、学校を支えるのはやはり「人」だということでした。
「支えるひとをささえる」という視点が広がれば、教育はもっとしなやかで、あたたかいものになっていくはずです。支えるひとが満たされれば、子どもも、学校も、社会も、きっと変わる。未来の学校は、人を大切にすることから始まる。このシリーズが、その一歩を考えるきっかけになっていれば幸いです。
