日本の大学のグローバル化、実践と課題
続く2つ目のパネルディスカッションには、関西大学、神田外語大学、東京大学大学院で、留学生の受け入れを含めた国際教育に携わる教授らが登壇。まず、ファシリテーターのEducation Rethink 共同創業者のAnna Esaki-Smith氏が、日本の少子高齢化の現状と、政府が掲げる留学生の受け入れ目標について触れた。
「日本政府は2033年までに留学生を40万人受け入れるという目標を設定しています。最近の統計では33万6000人と過去最高を記録し、対外的な目標としては、日本人留学生を50万人海外に送り出すことが掲げられています。これが現状のシナリオです」(Esaki-Smith氏)
こうした背景を踏まえて、日本の大学における「グローバリゼーション」の現状と課題について議論がなされた。
──日本の高等教育、大学教育における「国際化」とは何か、またそのねらいについてどうお考えですか?
池田教授:「国際化」という言葉には、大学としても政府としてもたくさんの側面があると思います。
留学生がキャンパスに通うこと、それも国際化のひとつです。しかし、それだけではありません。日本の大学にとって留学生を受け入れることは重要ですが、日本の学生たちに対してもグローバルなマインドセットが身につく教育をしていかなければなりません。「留学生が何人いるか」というのは、ただの数字にすぎません。
受け入れる側である日本の大学自体が、キャンパスをどのように国際化できるのかが重要だと思います。
北村教授:その通りですね。国際化には複数の意味があります。東京大学では「国際化がなぜ必要なのか」について考えています。例えば、ダイバーシティ&インクルージョンの側面から、さまざまなバックグラウンドを持つ学生が東京大学に加わることが大事という考え方もあります。
ただ、国際化が大事だという話は昔から言われていて、その概念自体が新しいわけではありません。では、日本の大学にとって、国際化はどういう意味があるのでしょうか。
従来、日本の大学は「日本の学生のためにある」という考え方でした。それが、現在政府や企業はじめ、多くの人々のマインドセットが変化し、「イノベーションを発揮するために新しい(多様な)アイデアが必要だ」という考えに変わってきました。それに伴って留学生も増えているのです。
芦沢教授:私の解釈では、国際化は「ラーニングモードを変える」ことだと思います。大学ではプロジェクトベースの学習など、さまざまな形態の学習や研究が行われていますが、異なる文化的バックグラウンドを持つ人と協働学習をする機会を多様に提供することが国際教育の重要な目標となっています。
大学教育における国際化は、私たちが生きている社会の写し鏡であるとも考えられます。今のところ、労働人口の約4%が外国籍であると言われています。これに加えて、日本で育った外国ルーツの若者が徐々に労働人口に加わり、外国に由来を持つ人々が社会に浸透してきているということですから、教育現場における文化的多様性を拡大していくことが重要になっていますね。
──留学生が増えている中で、大学にとって一番の課題は何ですか?
池田教授:就職への橋渡しが一番の課題です。留学生には大学を卒業した後も、日本に残って働き続けてほしい。
しかし、大学院生であれば、2年間という短い間に就職活動をしなければなりません。日本に来てすぐ、異文化に慣れるのと同時に就職活動をする必要があり、本当に大変な問題です。
ですから、日本の産業側の理解も必要です。異なる文化圏からやってきた人といかにして共に働くか、企業の方にも一緒に考えてもらう必要があるのです。大学だけではなく、社会全体が外国人を受け入れる土壌を増やしていくことが求められます。
芦沢教授:留学生が日本の企業に就職した場合、能力の高い人ほど数年のうちに昇給や昇進があることを期待すると思います。しかし、日本企業の雇用システムは年功序列なので、なかなか実現しません。日本企業では、コミュニケーション能力など汎用スキルを重視する一方、専門スキルが評価されるわけではないので、能力が高い外国人にとっては不満が残ります。そのため、外国籍社員が3年ほど日本の企業で勤めた後、将来の夢を断念して離職するケースはよく見られますね。
これからは、日本企業も専門スキルに着目した評価制度が必要だと思います。そして「高等教育から企業につながるキャリアディベロップメントの接続性をどう形成していくか」が課題です。
──国際化を十分に図れていない日本の大学にアドバイスするとしたら、どのような点でしょうか?
北村教授:大学ごとに独自の利点があると思いますが、日本の大学のよいところは修士レベルの研究環境が寛容で整備されているところです。私はアメリカの大学で学生をしていましたが、ドクターレベルにならないと研究者として扱ってもらえませんでした。
一方、日本の大学では修士課程においても、教授や学部生と共に研究できるシステムが整っています。研究者になるための能力を育むコミュニティがあることや授業料が比較的安価であるといった、日本の大学ならではの強みを訴求することが重要だと思います。
池田教授:大学が明日からできることとしては「リアリティチェック」ですね。統計調査によって、今どのような状況で、どんな課題に直面しているのかを理解する必要があると思います。
大学組織には教授や職員などさまざまなメンバーが関与していますが、彼・彼女らが「なぜ大学が国際化をしなければならないのか」を理解していない可能性もあります。なぜもっと留学生を受け入れる必要があるのか、一人ひとりが理解しなければなりません。
私の大学の国際部でさえも、その意識を浸透させるのに非常に時間がかかりました。意味を理解しなければ、国際化は進められないでしょう。
