多様な参加者、安全性への配慮──ガイドライン作成のポイントは?
では、中高生向けデジタル系大会を開催する企業や団体は、具体的にどのような点に気を付けるべきなのか。
デジ連のガイドライン部会が配慮しているポイントのひとつが「ジェンダーバランス」だ。運営スタッフや審査員が男性ばかりに偏っていては、女子生徒は参加しづらい。鹿野氏は「大会のスポンサー企業から関係者が登壇する場合も、男女比に配慮するように促す必要がある」と、大会全体のジェンダーバランスを考慮する必要性を強調する。
また佐々木氏は「大会のジェンダーバランスが崩れてしまった場合、『どこに問題があったのか』と振り返りを行うことが大事」と語る。例えば、テーマ設定やキービジュアルが多様な学生の参加を阻んでいる可能性も考えられるという。
「高校生対象の大会では『甲子園』というタイトルが付くことがあるが、男子生徒だけが参加できる印象を与えてしまう。また、ポスターに男子ばかりが写っていると、女子生徒は興味を持ちにくい。大会の広報面でも気を付けていただきたい」(佐々木氏)
加えて、マイノリティ側は疎外感を抱えやすいため、大会は疎外感をなくすようなメッセージを積極的に発信することが重要となる。「(女性やノンバイナリーを含めて)数が少ないうちは『歓迎しています』といった言葉を伝えることも大事」と佐々木氏は指摘する。
そのうえで佐々木氏は「女子限定のデジタル活動を増やすことも、女性のデジタル人材を育てる際で有効」だと指摘。学校現場や教育委員会は、ジェンダーを限定することに抵抗を示しがちだが、男女の参加人数の枠をあらかじめ決めておくなどして、バランスをとる努力も必要だと提言する。
「ジェンダーは多様性のひとつに過ぎないが、人口の半分を占める女性人材のバランスが適切になれば、多様性に目を向ける習慣がつき、自然とそのほかの多様性も改善されていくはず」と佐々木氏。特にデジタル分野ではジェンダーバランスが崩れやすく、その結果、男性ばかりで開発されたITプロダクトが女性にとって不利益をもたらすなど、問題が起きる場合もある。デジタル系大会のダイバーシティを担保する一歩目として、女子生徒の参加を促進していくことは重要となる。
また、安全性への配慮も重要で、ガイドラインに盛り込まれる予定だ。「特にロボコンのように、ハードウエアを扱う場合は安全性の確保が欠かせない。現在は専門家からの知見を集約しているところ」だと鹿野氏は述べる。
さらに鹿野氏は「学校教育との接続も重要なポイント」だと指摘する。小学校からプログラミングに触れ、中学校でその知識を深めて、高校では必履修化された情報Iの授業を受ける。さらには総合的な探究の時間で、デジタルを活用した課題解決に取り組んでいる生徒も多く存在する。「しかし、その成果を発表する場が少ない」と鹿野氏は危惧する。
「レベルの高いプログラミングコンテストで10人ほどが賞をもらうというのも、それはそれでいいこと。しかし、日本全体でデジタル人材の育成を進めるとなると不十分だ。クラスで誰か1人は大会に参加しているくらい、誰もが参加できることが理想」(鹿野氏)
そのため、学校の授業や部活で取り組んだ内容を大会で発表できるような「つながり」が重要というわけだ。
先述した通り、デジ連が主催する「全国情報教育コンテスト2024」には、これらのポイントに配慮したガイドラインが反映されている。同コンテストのキービジュアルには男子生徒が1人、女子生徒が2人が描かれたイラストが採用されているほか、応募資格には年齢のみが記載されている。「12歳以上18歳以下」の条件だが、19歳以上の高校生の応募も可能と明記している。
また、募集するのは「デジタル技術を活用した作品(アイデアorプロダクト)」であり、必ずしもプロダクトの形になっている必要はない。技術力を競うのではなく、創造的なアイデアを評価する大会であるため、応募の間口は広い。
そして「地域格差・経済格差による学習機会の不均衡の問題も解消しなければいけない」と佐々木氏は指摘する。最初のエントリーで必須となる提出物は応募用紙のみなので、世界中から応募可能である点も本大会の特徴だ。最終審査は東京の会場で行うが、その際の発表者と引率者の2名分の交通費は大会側が負担するという。