登壇者
- 鴻巣市教育委員会 教育部 学務課 指導主事 村上敏之氏
- 印西市立原山小学校 校長 穂戸田(ほとた)和宏氏
- 川崎市教育委員会 指導主事 新田瑞江氏
鴻巣市:PCを文房具のようにいつでもどこでも使える
初めに、鴻巣市教育委員会で指導主事を務める村上氏が、同市における校務DXの実態について発表した。
小学校17校、中学校8校、児童生徒数約8000名を抱える埼玉県鴻巣市。同市は教職員による会議を経て、令和元年に「学校教育情報化推進計画」を策定し、教員および児童生徒のICT活用を推進してきた。「先生も子どももPCを文房具のようにいつでもどこでも使用できる」というコンセプトでICT環境を整備。そのため「フルクラウド化」「3層分離の撤廃」「テレワークの実現」「校務支援システムの刷新」といった、従来はなかったチャレンジングな環境が実現した。「先生が1台のパソコンですべての機能を使えるようになっているのがポイントだ」と村上氏は述べる。
同市では平成27年から校務支援システムを導入していたが、令和3年に内田洋行の新システムへ刷新した。新システムには、データのクラウド化や勤怠管理の電子化、健康観察出席簿、学校日誌のデータ連携といった、働き方改革に直結する多様な機能が搭載されている。
村上氏は、校務支援システムの実際の画面を表示しながら、メニュー画面で児童生徒の出席状況が一目でわかることや、児童生徒の学籍情報は9年間、市内で転校しても引き継がれること、教育委員会や管理職との文書のやりとりが簡便にできるといった機能を説明した。特に出退勤記録の機能は、働き方改革に大きく寄与しているという。
「従来、出勤簿に印鑑を押していたものから、このシステムに変わった。ホーム画面に勤務状況が表示されている上に、学校長や教育委員会も勤務状況を把握できるので、勤務実態が心配な職員に働きかけやすくなった」(村上氏)
データ連携×PC1台で完結するICT環境が強み
村上氏は、この校務支援システムの最大の利点は「データ連携」だと語る。
例えば学校日誌を作成する際、従来は複数の教員が記入した情報を担当者が紙に手書きでまとめていた。1日の授業や部活、片付けまで終わった後に「今日は担当だった!」と気づき、1時間ほど残業することもしばしばあったという。一方、校務支援システムには各教員が集めた出欠情報や教頭からのお知らせなどがすでに入力されている。担当者は内容を確認して決裁に回すだけで学校日誌が完成するのだ。
また「鴻巣市の強みは、柔軟なICT環境だ」と村上氏。先述の通り、フルクラウド化、3層分離撤廃、テレワークの実現といった方針のおかげで、教員は学校内外のどこでも、PC1台ですべての校務支援システムの機能が使えるという。
「校務用と学習用で端末を分ける学校も多いが、鴻巣市では1台で完結している。先生は職員室、教室、グラウンドなどあらゆる場所に持ち運んで活用できる。さらに、端末とルーターは管理職の許可を得て自宅に持ち帰ることも可能なので、教員の働き方の幅が広がる」(村上氏)
こうした校務支援システムとICT環境整備の成果として、令和4年から5年にかけて教職員の労働時間は減少傾向にある。村上氏は「最初は慣れるのに苦労した先生も、今は当たり前に使えるようになってきたのが、成果の要因」と考察した。
「もちろん子どもたちのICT活用も重要だが、子どもたちの学びのためには、まず教職員一人ひとりが生き生きと仕事をしていることが大事。学び方・教え方・働き方を変えていくためのICT活用推進をこれからも進めていく」(村上氏)