技術の進歩で大量のデータ取得・分析が容易に
──近年、大学におけるデータサイエンス教育は国の重要方針のひとつとして示され、専門の学部を新設するだけでなく、文系理系を問わず全学生が学ぶ教養科目として取り入れる大学も増えています。その背景について、田代先生はどのように考えていらっしゃいますか。
確かに、これまではデータサイエンスはおろか統計学すら十分に学ぶ学部・学科は限られていました。また、これまで統計学と言えば、1000人ほどのサンプルを抽出し、その分析結果から全体を「推定」するというものでした。
それが、コンピューターや情報通信技術の発達によって、100万人単位でデータを容易に取得できるようになってきました。しかもパソコンだけでなく、スマートフォンというほぼ全国民が保有する機器が登場し、「普通の人」のデータが大量に取れるようになったのです。さらにコンピューターは大量のデータを処理できるので、サンプルを抽出せずとも、そのまま丸ごと分析し、世の中の動向を探ったり、未来を予測したりできるようになってきました。
当然ながら企業や国はデータを活用したいと考えるようになり、データサイエンスに対する社会的なニーズが急速に高まって、その担い手の育成が大学など高等教育機関に求められるようになった結果だと考えています。
──社会の変化があって、それに応える形になったということでしょうか。
そうですね。今まで「勘」と「経験」でやってきた未来予測も、データサイエンスを活用すれば、より精度の高い結果を得ることができる。そのことに人々が気づき始め、大学に人材育成の要請がきたということです。
実際、データの影響力は非常に大きく、いわば「人を説得する」強力な武器となります。例えば、どれほど経験豊富な上司であっても、新入社員がデータを分析して「お客さまが求めているのはこれ」という答えを導き出したら、それに従わざるを得ないわけです。中には無視する上司や経営者がいるかもしれませんが、聡明な方ならデータの意味が直感的に理解できるはずです。そうしたことを繰り返していくうちに、「もっとちゃんとデータを分析したほうがいいよね」といった結論が出てきたのだと思います。
私自身、もともとIT企業でブログの炎上防止のために研究を始めたことが、この道に入るきっかけだったのですが、当時、権威ある学者や事例を多く知る新聞記者が語る説を、データを集めてエビデンスを示すことで覆す経験をしました。同じようなことがさまざまな分野で起きており、社会全体が「やはりデータは重要、うまく活用できないか」という発想に至ったのだと思います。