エンジニアリングとデザインの融合
東京工業大学は2016年4月から新しい教育システム「東工大教育改革」を推進しており、「グローバル社会に寄与できるような人材像」の育成を目指している。その一環として、複数の分野を横断する教育体制が生まれ、大学院課程に「エンジニアリングデザインコース」が設置された。具体的には、機械系、システム制御系、経営工学系、建築学系、土木・環境工学系、融合理工学系の学生が集まり、既存の科学・工学体系の枠にとらわれずに、社会で求められる新たな技術・価値・概念の創出を目指すものである。
そのエンジニアリングデザインコースの必修科目に「エンジニアリングデザインプロジェクト(EDP)」がある。主担当教員である齋藤滋規教授が、2013年に客員研究員として滞在したスタンフォード大学からデザイン教育を持ち帰り、日本のエンジニアリング教育と融合させながら、試行錯誤の末に生み出した授業だ。2015年度は文科省の人材育成プログラムの支援を受け、2016年度から大学院課程の必修科目となり、2017年度で3年目となる。
必修科目なのにいろんな人がいる
EDPの大きな特徴は、東工大の必修科目であるにもかかわらず、東京芸術大学や武蔵野美術大学の学生、社会人の科目履修生やボランティアの方々も受講しているという点だ。これには、チームメンバーの多様性を高めることで、今までにない革新的なアイデアを生み出すという狙いがある。
書籍『エンジニアのためのデザイン思考入門』では、それぞれの受講生を大きく「エンジニアリング」「デザイン」「ビジネス」の3つの専門分野に分類し、主な特性を以下のような表にまとめた。
授業の初期によく見られる光景は、[エンジニアリング]の東工大生がとにかくモノを作りたいがために無難なアイデアを出し、それに対して[ビジネス]の社会人が有用性の少なさを気にしながらも、学生相手に強く反対することができず、それを見ている[デザイン]の美大生はアウェーすぎて意見をまったく出せないか、斜め上の独創的なアイデアを返すというものである。お互いに距離感がつかめずに、意思疎通がうまくいっていない状況だ。
このような状況で「今までにない革新的なアイデア」が本当に生まれるのか?と不審に思われることだろう。確かに簡単なことではないし、多様性があるだけで結果が出るなら苦労はしない。だが、普段なら絡むことのない、特性の異なる4~6名が1つのチームを作り、お互いに理解を深めながら作業を進めることで、その確率は飛躍的に高まるのである(という願望を抱いている!)。