2014年からiPadの実証研究をスタートした伊那市
伊那市は長野県の南部に位置し、赤石山脈と木曽山脈の2つの日本アルプスに囲まれた自然豊かな地方都市だ。人口は約6万8000人、小学校15校と中学校6校がある。2021年4月には市内全校の1人1台のiPad(Wi-Fiモデル)の整備を終え、現在活用している。
伊那市教育委員会 学校教育課ICT教育推進係の竹松政志氏によると、PC教室に設置されていたWindows PCのリプレイスにより、2014年にiPadが250台導入されたことが同市の本格的なICT活用のきっかけになったという。
「実際に活用してみると『1人1台』の必要性を感じたため、翌2015年からは伊那市立東部中学校を実証校とし、市内のiPadを集めて『1人1台』での研究を行うようになった」と竹松氏は話す。その際に中心となって実証研究を進めたのが、現在、伊那市ICT活用教育推進センターに在籍しながら伊那市立高遠中学校で教員を務める足助武彦教諭だった。
同時に伊那市では2016年から、IoTを活用し地域活性化をはかる「地方版 IoT 推進ラボ」に参加し、新産業技術推進事業を展開している。そのひとつとして「ICT・IoTを使った教育」を掲げていた。このようにGIGAスクール構想が始まる以前から学校現場への端末導入を進めていたほか、SB C&SとのICT活用教育推進協定や、信州大学との連携をはじめとした産官学による取り組みも実施。「伊那市としては、これまでさまざまな実証をしてきたため、GIGAスクール構想で1人1台体制になることに対して抵抗感はなく、むしろ現場は望んでいた。運用面での課題はあったが、蓄積してきた活用方法があるため、混乱なくスタートを切ることができた」と竹松氏は話す。
現役の教員が市内のコーディネーターとして活躍
伊那市のICT活用においては、2018年に設立された「伊那市ICT活用教育推進センター」の存在も大きい。同センターでは、学校の課題・ニーズの実態把握のほか、学年別カリキュラムに基づいた授業実践、教員向けの研修支援などを行っている。足助教諭は、伊那市立高遠中学校の教員として現場でICTを活用した授業を実践しつつ、同センターのエリアコーディネート教員として学校現場と教育委員会をつなぐ役割を担っている。
「足助先生にこの役割をお願いした背景には、2014年ごろからiPadの活用を実践してきた現場教員として、行政と二人三脚でICT化の推進を進めてきてくれたことがある」と、竹松氏はその経緯を話す。
さらに「現場のことを熟知し実践している足助先生には、1つの学校の中にとどまるのではなく、市内全体を見る旗ふり役として、いわば『野に放ちたかった』」と竹松氏。そこで、当時の伊那市教育委員会の教育長と相談し、長野県が行った地域課題解決のための学び方改革の研究担当として指名し、足助教諭がICT活用教育推進センターに着任する流れになった。
現在、ICT活用教育推進センターには「GIGAサポーター」と呼ばれる5名のスタッフが在籍している。「あえてICT支援員でも、GIGAスクールサポーターでもなく、『GIGAサポーター』としているのは、もっと広い意味で業務を兼ねるという意味がある」と竹松氏は解説する。具体的には、マニュアル作成からネットワークトラブルの調査といったテクニカルなサポートまで、学校の授業におけるICT活用の支援全般を行っているという。