ロボティクスの教材を使うことで、低学年・特別支援学級の学びはどう変容するか
今回、八王子市立横川小学校での「プログラミング的思考を養う授業」でマタタラボの活用を支援した帝京大学教育学部 初等教育学科の福島健介教授に、低学年・特別支援学級向けの教材として選定した理由や経緯について伺った。
「日本におけるプログラミング教育の遅れは世界的にも顕著で、中でも特別支援学級についてはわずか4%ほどの先生しか実施していないという調査結果があります。プログラミング教育の理解が進んでいないという先生側の問題もありますが、一番の理由は『プログラミング教育によって養われる“プログラミング的思考”が、特別支援学級の子どもたちとミスマッチしているのではないか』という疑念が払拭できないこと、そして、そこに適応した教材が少ないことにあります。推奨されているスクラッチやビスケットでは難しく、なかなか集中して取り組めない。そこで研究者として、特別支援学級で養われる“プログラミング的思考”とは何か、そして、それを育むためにどんな教材が有効なのか示していく必要があると考えています」
そんな時に、2021年の「教育総合展(EDIX)東京」でマタタラボと遭遇。文字や言葉を使わないこと、ロボットという実体とプログラミングという抽象が連携していることから興味を持ったという。
「プログラミング教育では、主に3つの学びの手法が導入されています。まずパソコンを使わない『ルビィのぼうけん』のような①アンプラグド、スクラッチやビスケットのような②コンピューティング、そしてマイクロビットなど現物を動かす③ロボティックスです。これらをコンピュータサイエンスなど高度な学びにつなげていくには、バラバラではなく連携させていく必要があります。それでも比較的②コンピューティングと③ロボティックスは繋げやすいのですが、①と②、①と③は難しい。マタタラボはそこをつなげる教材として期待できると考えたわけです」
低学年・特別支援学級のプログラミング教育において、「ロボティクスを使うことでどのように変容するか」は研究テーマの一つであり、福島教授がアドバイザーを務める小学校4校のうち、八王子市の研究指定校である同校での授業実践を行うことになった。とはいえ、低学年や特別支援学級の子どもたちへの影響を具体的に把握するのは、アンケートや感想文では難しい。そこで、子どもたちの様子やつぶやき、行動などを観察しようと、ゼミ学生の明神さんが講師として参加。他2名の学生と共に子どもたちに寄り添いながら、定性的な変容を記録し、その分析を行うことで、子どもたちのプログラミング教育の成果を捉えようとしている。
「今回の研究・調査の結果は、テキストマイニングツールなどで詳しく分析する予定ですが、左右や前後など、空間を表す単語・指示語の種類と量が増えており、子どもたちが自身の意思を明らかに示すようになってきたと感じています。特別支援学級の子どもたちには、どうしても周りの大人たちが先回りして指示を出しがち。でも、子どもたちはロボットと会話をしているかのように意思を伝えて、実体が動くことで感動があり、それが自分の空間に対する意識へとつながったのではないでしょうか。大学生でもパソコン内だけでなく、モノが動くと歓声が上がるくらいですから」
その他の気づきとしては、「特別支援学級では、普通学級より断然1人1台の方が効果が高い」ということが明らかだという。グループ学習のときは気が散っていた子も、1人での作業となると没入して取り組むようになる。しかし、ようやくGIGAスクールでパソコンやタブレットの1人1台が実現しつつある中で、実体が必要な教材が潤沢に用意できるかは今後の課題だ。また、プログラミングツールを使えるようになるまでの学習時間の確保も課題といえるだろう。
そして、福島教授が「何より重要と感じた」と語るのは、「実生活とプログラミングが結びついていること」だという。
「子どもたちの学びは、やはり身近な生活や興味関心と結びつくことで興味関心が高まり、効果が出る。それはプログラミング教育も同様だと思います。その意味で、高橋先生が生活単元学習の学区探検とマタタラボを結びつけて学習させようとしているのはすばらしいこと。ロボットにかぶせた毛糸の帽子もそうした工夫の一つでしょう。このような創意工夫ができる、先生が面白がって想像力をかき立てられる教材が良い教材といえるのではないでしょうか。ぜひ、子どもたちと楽しむつもりで、プログラミング教育を実施していただきたいと思います」
これらの研究成果も含め、3月に研究授業の動画公開が予定されている。そして、2022年度も引き続き東京都の情報教育研究校としてプログラミング教育研究が実施され、マタタラボの使用も継続されることになっている。