変わる防災教育ーーデジタルを活用して自分で考える
このワークショップは室蘭市総務部防災対策課が主催したもので、室蘭市にある公立高校、北海道室蘭栄高等学校で2021年11月から12月まで、3回にわたって開かれた。参加した生徒は6グループに分かれ、1日目と2日目は室蘭市の災害の歴史、防災時に使えるコンテンツ、マーケティング目線での災害情報発信などを座学で学んだ。2日目はこれに加えて、セールスフォースの学習プログラム作成ツール「myTrailhead(マイトレイルヘッド)」の活用方法の講習も受けた。
そうして迎えた3日目、いよいよグループでmyTrailhead上のコンテンツ作成に入った。シナリオは、未来に被災する自分が室蘭に滞在しているとしてeラーニングで防災を学べる教材を作るというもの。ミッションとして、「あなたの大事な人を災害から守り、生き延びてもらうために必要な知識を学習してもらうコンテンツを作成する」「重要性は分かってはいるけどやらない友人でも確実に実行できる、1ステップでできるアクションを提案する」の2つが与えられた。
生徒たちは1時間15分の間に、それまでの座学で学んだコンテンツづくりとピッチ(短いプレゼンテーション)構成についての知識を生かしてコンテンツ作成に取り込んだ。その後、発表の準備をして本番へ。持ち時間3分で作成したコンテンツを紹介した。
6チームの発表テーマは以下のようになった。
- チーム1(防災JK):避難時に女性に必要なこと 女性の皆さん、長期避難用の持ち物は十分ですか?
- チーム2(災害から守り隊):個人間の災害に対する意識の向上 みなさん一人ひとり災害への意識が低いんじゃないですか?
- チーム3(イナソウ海賊団):災害の恐ろしさを身近に感じてもらう 50mmってどれくらいの雨?
- チーム4(デンジャーディフェンダーズ):災害への意識 皆さんは普段の生活が壊れることを想像したことがありますか?
- チーム5(ボウサイズ):津波に備えよう
- チーム6(MOOOW):生き残るための情報をもっと身近に 災害時、あなたは生き残れますか?
着目点とロジカルさが評価され、総合優勝を獲得
6チームの中から見事に総合優勝を獲得したのは、チーム3の「イナソウ海賊団」だ。
チーム3は大雨による災害に焦点を当てたコンテンツ「災害の恐ろしさを身近に感じてもらう 50mmってどれくらいの雨?」を作成した。副タイトルにあるように、50mmの降水量がどのようなものかをイメージしてもらうため、まずは降水量の定義から入る。表とともに、1時間あたりの降水量によってどのような災害が引き起こされるのかを知らせ、50mmの場合は「傘は役に立たなくなる」と教えた。
次に、雨によって引き起こされる災害がどのようなものかを説明、その一例である土砂災害の前兆についての表を貼り付け、「崖崩れ、地滑り、土石流などを発見した場合、そこで土砂災害が起こる可能性が高い。こういう点に気を付ければ、災害に遭う可能性が低くなる」と伝えた。
その後、実際に雨による災害が増えていることを示すグラフを用意して、身近に感じてもらうようにした。大雨発生の原因の一つとされる地球温暖化に対して、一人ひとりが意識を持って行動することの大切さを強調した。
最後に、ARを使って降雨レベルをイメージできるアプリを紹介し、「雨はわれわれに恵みを与える一方で、時には命を危険にさらす。雨の災害に備えましょう」と呼びかけた。
審査員で、ワークショップでは講師を務めたGLOCOMの主任研究員 櫻井美穂子氏は、「とてもロジカルで、大学のレポートのレベル」と絶賛。中でも「雨50mmってどういう意味」などの問いの立て方がよい、と評価した。同じく審査員で座学の講師も務めた大正大学 地域構想研究所 中島ゆき氏は、「防災情報がたくさんある中、雨にフォーカスして、しっかり裏付けを作っているのが良かった」と感想を述べた。
なお、室蘭市長を務める青山剛氏によると、室蘭の災害で最も多いのは、大雨に伴う土砂災害とのことだ。