あらゆる業界・業種でIT人材が求められる時代に
コロナ禍の影響もあり、学校教育におけるオンライン授業が一気に普及しつつある。さらに2020年度には小学校でプログラミング教育が必修化され、中学校では2021年度から、高校では2022年度から、それぞれプログラミングを含めた情報教育が拡充される。これにより、教育分野におけるデジタルコンテンツへの関心が急速に高まり、その延長として大学などの高等教育機関における情報教育にもスポットがあたりはじめた。
なぜ今、高等教育機関においてテクノロジー分野の人材育成が急速に求められているのか――その問いに対し、官公庁や自治体、教育機関、企業などさまざまな組織・法人に対し、多種多様な事業開発と提案を行ってきた田村氏は、背景に「社会からの強い要請がある」と語る。
「Society5.0で提唱されているように、日本の社会を発展させ、経済を活性化させていくためにはデジタル・トランスフォーメーション(DX)が重要なカギを握っている。そうした潮流の中、医療や教育など、かつてICTとはやや距離があった領域でも急速にデジタル化が進み、そこで働く人にとってもICTの知識はなくてはならない存在となった。実際、シスコにも『社内でIT人材を育成したい』『どこから教育をはじめたらいいのか』などの問い合わせが急増している」(田村氏)
これまで企業における情報教育と言えば、外部からICT知識が豊富な人材を招き、社内向けにセミナーを開催して浸透させるといった手法が主流だった。しかし、刻一刻と変化する社会やテクノロジーに対応していくためには、組織内の一人ひとりが柔軟にICTを使いこなすことが重要であり、そのための基礎知識やスキルはあらかじめ備わっていることが望ましい。それらがあらゆる社会人に求められるものであれば、社会に出る前に習得が求められるのも必然と言えるだろう。
そして、ここで重要なのは「社会で求められるICTの知識・スキル」が、単にプログラミングやツールの使い方だけではないということだ。
「例えば、仕事におけるコミュニケーションスタイルも大きく変わり、会話の進め方やチームで仕事をする際の作法などもかつてとは異なる。それは、単にデジタルツールを使いこなすということだけではない。多様なバックグラウンドを持つ人々の多彩な意見やアイディアをくみ取りつつ整理し、決められた時間内にアウトプットした上で、迅速に改善するなどの『デジタル時代のデシジョンメイキング(意思決定)スキル』とも言える。そうした観点からも情報教育が重視されている」(田村氏)
これらの力を重視する兆候は、例えばスマホの持ち込みが可能な大学入試などに現れている。知識があるだけでなく、テクノロジー活用を前提とした多方面からの情報収集能力、集めた情報を整理して再構成してアウトプットする力、自らの体験と紐付けていく力などが求められているというわけだ。
そして、業界・業種を問わず、あらゆる仕事の場面でICTの知識・スキルが求められるということは、裏を返せば、どの分野においても「個人の大きな強み」となる。
CSR部門でIT人材育成プログラム「シスコ ネットワーキング アカデミー(以下、ネットワーキング アカデミー)」を担当する山中氏は、「IT人材と言っても、決してIT業界で働く人だけを指すわけではない。これからはどのような業界で仕事をしていても、ICTやデジタルに関する知識が最低限身に付けるべきリテラシーとして求められるのは明白」と改めて強調する。そして「学生のうちにICTの知識やスキルを獲得することで、将来仕事を決める際により多くの選択肢から選べる。いわば、自分らしい働き方、人生を選び取るための大きな支えとなる。そうした力を身につける機会を、文系・理系に関わらず、あらゆる学生が享受すべきと考えている」と語った。
ICT人材の育成を目的に多面的な支援を実践
いまや世界有数のグローバルIT企業へと成長したシスコシステムズだが、もともとはスタンフォード大学発の学生ベンチャーが原点であり、まさにキャンパスから生まれた会社と言っても過言ではない。こうした背景から大学や教育機関のユーザーも多く、それぞれの組織と連携しながらたくさんのソリューションやサービスを創出してきた。その中で長きにわたってさまざまなIT教育支援を行い、とりわけ近年は大学などの高等教育機関向けのデジタル化支援において次の3つのテーマを掲げ、積極的に展開している。
まず1つ目の「学内デジタル化」は、既存授業のオンラインへの置き換えとともに、オンラインならではのメリットが享受できるようなハイブリッドラーニングの仕組みの構築など「授業・研究」の支援、そしてリアルおよびデジタルでつながり続け、キャンパスライフを充実させる「学内サービス」の実現を指す。2つ目には「外部との共創活動」を、教育機関を共に協働する「ユニバーシティパートナー」として捉え、特にテクノロジー分野での実証実験などを「産学官連携」で進めている。さらには地域の中での共創を育み、「地方創生」へとつなげる取り組みにも積極的だ。そして3つ目の「DX人材の育成」については、学部生や社会人を対象とした「ネットワーキング アカデミー」、そして高大連携の「デジタルスクール ネットワーク」などが該当する。
「当然ながらこれらを実現させるためには、堅牢なセキュリティと高い性能を併せ持つデジタルプラットフォームが不可欠であり、シスコシステムズのビジネスとしての強みも発揮される。しかし、それ以上に企業としての生い立ちもあって、ユーザーである教育機関のネットワークと連携し、新しい社会で求められるIT人材の育成のために貢献したいという思いがある」と山中氏は語る。
例えば、「デジタルスクール ネットワーク」は、国内外の高校・大学同士が連携し、多様なアウトプットやコンテンツを共有するという発想から構想された「遠隔教育のマッチングプラットフォーム」だ。日本では2018年9月より参加校を募集しており、時差の少ないオーストラリアやニュージーランドを中心としたアジア太平洋地区の5カ国100校以上のネットワークに参加できる。シスコシステムズからはもちろん、各校からも学びのプログラムが提供されると同時に、多彩なフィードバックが得られる場となっている。
そしてもう1つ、次世代IT人材育成プログラムとして、シスコシステムズが力を注ぐのが「ネットワーキング アカデミー」だ。前出の「デジタルスクール ネットワーク」がデジタルラーニングプラットフォームとして、既存の学びのオンライン化や海外交流・探究学習などがテーマとなる一方、「ネットワーキング アカデミー」はICTの基本的な知識・スキルの獲得そのものにフォーカスしている。1997年にシスコシステムズの社会貢献(CSR)活動の一環として開始され、現在は世界180カ国で展開、修了者は1000万人以上に上る。IT企業が提供する教育プログラムの中でも草分け的存在と言えるだろう。
さらに付随サービスとして特筆すべき点が、2017年から提供が開始された「タレントブリッジ」と呼ばれる企業への就職マッチングシステムだ。学校でも個人でもプログラムを修了した学生はすべて、シスコシステムズの販売代理店各社からの求人に対して手を挙げることができる。IT人材の確保に苦慮している企業は多く、求人を出す企業からも高く評価されているという。