PBLとは何か?
PBL(Project-Based Learning)とは、従来型の知識を学ぶ学習方法ではなく、学んだ知識・技術を自分の興味関心のある身近な社会課題の解決ができる仮説・プロダクト・システムを作ってみることで、深い学びを得る学習方法です。イノベーションや社会的変化が現代ほど急激に進んでいなかった社会では、確立した知識体系やシステムを正確に再現し、それを改善することで、より高い価値を産むことができました。しかし、今回のコロナ禍のように、未知の領域の多い、解決すべき社会課題が世界規模でいつ起きてもおかしくない現代の社会では、既存の知識体系や価値を再構築し、新たな価値や解決策を作り出すことが求められるのです。
こうした新たな社会的な状況に対応するために、PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)が注目されています。PBLによる学習方法は世界的な動きとなっています。世界の学力到達度テスト(PISAテスト)を行なっているOECD(経済開発協力機構)の教育部会は、2030年のフレームを発表しており、PDCAサイクルを回して「価値」を産み個人や社会の「幸福」を実現するPBLの手法を推奨しています。
PBLが育むこれからの社会で必要とされる能力
PBLは社会が工業社会へと変化した20世紀初頭に生まれました。T型フォードの大量生産に代表されるように、20世紀には工場製品の大量生産により生活スタイルは大きく変化しましたが、PBLの学習手法は欧米において、これらの新しい価値創出に大変貢献したわけです。スタンフォード大学を代表とする実学的な教育機関では、PBLが多用されています 。その経験値はシリコンバレーのベンチャー企業のカルチャーとなり、現在のICTによる社会変革を牽引しています。日本もこうした革命に追随・改善することで、現代に至る高い国力を維持することができたのです。
しかし、今回のコロナ禍、東日本大震災による原発事故、自殺者の増加、幸福度の低下(世界幸福度ランキング2020で62位)などに象徴されるように、効率的なシステムに囲まれていても、必ずしも個人や社会の幸福度に寄与するとは言えない状況が生まれて来てしまっているのです。そこで始まった新たなPBLは、従来の生産性を高めるプロジェクトではなく、個人や社会の幸福度を高めるプロジェクトへと変化してきています。高校生の間で広がっているマイプロ(慶應SFC 井上研究室開発)などはその良い例です。大学入試も変化し、自分の活動の成果を提げて推薦入試・AO入試で評価する大学が増えて来ています。
文科省はこうした社会の変化に対応するために「学力」を拡張し、①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③学びに向かう姿勢(主体性・多様性・協働性)と再定義し、2021年の大学入試改革・学習指導要領の改定を行い、順次改革を進めています。
こうした新しい能力は、一言で言うと、世界を自分に引き寄せて解決する「引き寄せの法則」を身につけることだといえます。既存のシステムでは解決できない「自分の課題」を感じる力。その課題を解決するためのリソースを集める力。解決策を実際に実行する力。仲間を集め、ともに困難を乗り越えて力を活かし合う力。PBLで培われるのは、こうした「自分軸」で世界の課題を解決していく力だと言えるのです。