「やってみる」ことで、理想と現実を埋める可能性が見えてくる
受賞が報告された際には、生徒たちは無邪気に喜んでいたというが、同時に「落ち着いていて自信にあふれて見えた」という。
「完成した時点でやりきった充実感が得られており、さらに応募前に多くの方に動画を見てもらい、『実現すると良いね』『とても良いアイデアだと思う』などの声をたくさんかけてもらったようなんです。それが彼女たちの大きな自信にもつながったようにも思います。入選したことは喜ばしいことですが、それ以上に学ぶ過程でさまざまな気づきを得たこと、実際に行動し自信をつけられたことが何よりの収穫だと思います」(鈴木氏)
もともと同校にはフリーテーマで掘り下げる「自由研究」の授業や、テーマと行き先が分かれた約25個のコースから自分の興味に応じて選ぶ「課外教室」など、自学自習で取り組む機会が設けられている。多くはレポートの提出で完了するが、中にはスピーチによる発表を行う場合もあるという。また情報の授業ではプレゼンテーション資料を作って発表したり、シナリオを書いて寸劇を行ったりすることもある。そのため、同校の生徒は人前に出て自分の意見を伝えることに苦手意識が少ないのではないかと鈴木先生は分析する。
「それでも校外に向けての発信ができたということは、生徒にとって大きな自信につながったと思います。そして、同年代にそうした生徒がいるということは、他の生徒にも大きな刺激になるのではないかと期待しています。残念ながら、ちょうど新型コロナウイルスによる学校閉鎖と重なり、校内での紹介はまだできていませんが、ぜひとも校内で表彰や発表を行い、他の生徒たちの反応も見てみたいですね」(鈴木氏)
そして、挑戦から学びを得た生徒たちは、ごく自然に次の挑戦へと進んでいく。日野さん、森谷さんも、「今後は動画で提案したことを実現するために、実際に企業に協力を依頼したり、濾過器の精度をより高めるため改良を続けたりしたいと思っています。また、この動画を多くの人に見てもらい、水の大切さやSDGsについて考える人が1人でも増えていくよう、広告活動も続けていきたいと思います」と意欲を語る。また、今回の経験を活かし、他のことにも挑戦していきたいという。
「今回の取り組みは、まさに生きた学びだったと思います。学校の勉強は社会の入り口へとつながっており、意識しながら学ぶことが大切。英語やICT教育などは必要性が分かりやすく、学校としても力を入れていきますが、社会的課題の解決や自分の人生を豊かにすることを考えれば、創造性や問題解決力なども含め、文理を問わずさまざまな学びが必要です。変化の激しい時代にあって『やってみなければ分からないこと』も多いでしょう。机上ばかりでは理想や理屈にとどまってしまいがち。こうした機会を含め、自分たちができることを考えながら実践で学ぶことを大切にしてもらいたいと思っています」(鈴木氏)