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アドビのコンテスト受賞校、成城学園高校の指導教諭に訊く、子どもたちの「やってみたい!」を支援する校外活動指導とは

「Hello! SDGs クリエイティブアイデアコンテスト」受賞校インタビュー

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2020/04/28 12:00

 変化の激しい時代の到来とともに、複雑化・多様化する社会的課題を解決する能力が求められるようになり、教育の現場でも「創造的問題解決能力」の育成が重要なテーマとなりつつある。そのニーズに応え、アドビでは学校におけるクリエイティブ教育の支援を目的に、さまざまなツールとともに教育関係者への知見やノウハウ共有の機会を提供している。2019年11月28日~2020年1月31日にかけて開催された「Hello! SDGs クリエイティブアイデアコンテスト」もその一つ。今回はその優秀賞受賞作品の中から、成城学園高等学校の生徒2人が作成した「持続可能な水作り」(Adobe Spark Video)について紹介する。

学校部門の優秀賞として選出された成城学園高校

 未来を生きる子どもたちの「創造的問題解決能力」の育成を支援するべく、アドビが開催した「Hello! SDGs クリエイティブアイデアコンテスト」では、国連が国際社会共通の目標として掲げた「SDGs:Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)」をテーマに、Adobe Premiere Rush(アドビプレミアラッシュ:ビデオ編集ソフト)またはAdobe Spark(アドビスパーク:コンテンツ作成ソフト)を使用して制作した作品の募集が行われた。単なる作品コンテストではなく、課題発見から解決のプロセスにおける試行錯誤やアイデアの視覚化、プレゼンテーションに至るまでが評価され、総合的な「創造的問題解決能力」育成に寄与することを目的としているという。

 学校部門の優秀賞として選ばれた成城学園高等学校の「持続可能な水作り」は、2年生の日野さん、森谷さんによる作品。世界の多くの地域では汚れた水を飲んでいる人たちがいる現状の紹介に始まり、実際に濾過器を作るまでの試行錯誤をAdobe Spark Videoを使って動画にまとめている。濾過器というアイデアを実際に身近な材料で試し、さらには実現可能な仕組みまで考え、メッセージとして表現したことが高く評価された。

学校部門の優秀賞として選出された成城学園高等学校の森谷さん(左)と、日野さん(右)
学校部門の優秀賞として選出された成城学園高等学校の森谷さん(左)と、日野さん(右)

2人の生徒が自発的に開始した取り組みをサポート

 成城学園高等学校は、東京都世田谷区成城で中高一貫教育を行う私立の高等学校であり、旧制成城高等学校および旧制成城高等女学校を母体とする伝統校だ。自学自習と自治自律を信条とし、自発的な行動力を重んじる自由な校風として知られ、都内はもとより、神奈川、千葉などから通学する生徒も多い。個性尊重の教育をめざし、一人ひとりの生徒について学習や進路の目標を定め、創意工夫し努力することを支援している。

 近年ではICT教育にも力を入れており、すべての教室にWi-Fi環境に加え、パソコン、プロジェクター、映像機器としてBlu-rayやDVD、Apple TVなども用意され、PowerPointやiPadなどを使って授業を行う教諭も多い。生徒には3年前から1人1台iPadを貸与しており、主に英語の家庭学習や授業内コミュニケーションなどに活用されている。現在の高校3年生は入学時からタブレットを使用していることになり、使い方については先生・生徒とも十分に慣れている状態だ。

 同校教諭の鈴木勇一氏は今回の応募のきっかけについて「生活指導の観点から一部機能制限をしているものの、iPadなどのICTツールの使用拡大は積極的に行っており、生徒は日頃から自由に使いこなしている印象があります。今回のコンテスト参加も、生徒たちが自分たちでネットで情報を見つけ、参加することを決め、いつの間にか実行していたというところです。もともと先輩たちが自主的にSDGsの活動をしていることを知り、『自分たちも何かやりたい』と思ったのが始まりだと聞いています」と語る。

 「学校単位での応募なので、担当教諭として私の名前が入っていますが、ほぼ100%生徒主導です。彼女たちが自主的に始めて、自主的に作業し、私は求められたのでアドバイスをしただけというのが実情です。他にも化学の先生にはいろいろと知識面でのアドバイスをしてもらったようですが、実際に濾過器を作ってみたり、街に出てインタビューを行ったりしたのは、彼女たちのアイデアと行動力によるものです」(鈴木氏)

成城学園高等学校 鈴木勇一教諭
成城学園高等学校 鈴木勇一教諭

 応募のきっかけとなった先輩のSDGs活動も自主的に行われたものだ。キャッサバやコーンスターチを使ったバイオプラスチックでバッグを作るという取り組みで、校内で発表され注目度も高かった。SDGsについては校長先生が始業式で話題にしたり、校内にポスターが貼られたりしており、関心を持つ生徒も多かったという。

 しかし、日野さんと森谷さんが先輩に刺激されて活動を始めた頃は、鈴木先生はまったく気づいておらず「あとになって、生徒たちだけでこんなに積極的に活動していたと知って、正直言うと少々驚きました。先生は生徒の一面しか見ていないのではないか、もっとさまざまな面を知り、さまざまな面を引き出す必要があるのではないかと考える機会になりました」と語る。

 実は日野さんと森谷さんはもともと早い時期から水や浄水器について関心を持ち、化学の先生とのやり取りは頻繁に行っていたという。その後、コンテストを知って鈴木先生に相談し、実験は冬休み、動画作成は3学期の応募期限間際になってからだった。しかも動画編集はまったくの未経験で、教えてもらうこともなかったという。しかし、Adobe Spark Videoを使いながら慣れ、豊富な機能も使いこなせるようになった。本人たちは「まだまだ改善の余地はあるけれど、動画を見てくださった方々に自分たちが伝えたいことがしっかり伝わるように仕上げられた」と出来栄えに大変満足しているという。

Adobe Sparkとは

 テンプレートを使って、テキストや写真などの素材を組み合わせることで、プロ品質のグラフィックを簡単に作成できるコンテンツ作成ツール。Webページやショートムービーの制作にも対応している。

 Webアプリのほか、モバイルアプリでグラフィック制作用の「Spark Post(iOS/Android)」、Webページ制作用の「Spark Page(iOSのみ)」、動画制作用の「Spark Video(iOSのみ)」も提供されている。

クリエイティブの“過程”こそがクリエイティブな学びの経験に

 動画の作成・編集は楽しみながらスムーズに進められたというが、濾過器の作成と、水不足を課題としている国々の状況把握は少なからず苦労もあった。「机上の空論にならないよう、現場の状況に合わせた解決策を考える必要があるのではないか」という鈴木教諭のアドバイスのもと、水問題を抱える国の文化や経済状況などを調べるなど、バックグラウンドの理解から行った。

 施策のポイントとなったのが、濾過器の実現可能性だ。濾過器自体はいくらでも世の中にあるが、水不足が課題となっている国で現地の人々が自ら調達し、使いこなせるものでなければ意味がない。そこで比較的手に入れやすい材料を調べ、それらの材料で作る濾過器の設計図を作成した。さらに使い勝手を検証するために、実際に公園で石を拾い、活性炭を砕いて濾過器を作成し、濾過の実験を行った。その試行錯誤の様子は動画でも紹介されているが、何度も繰り返すうちに最も適した石、活性炭の量、材料を入れる順番などを編みだすことができたという。

自作した濾過器
自作した濾過器

 「インターネットで調べ物をしていて、活性炭の原材料にヤシの実の内果皮が多く使われているということを知ったときは、あまりの衝撃に2人でカフェで叫びそうになりました。水不足で悩んでいる地域は暖かいところが多く、ヤシの実ならば現地で調達が可能じゃないかと思いました」と、生徒たちは貴重な情報を見つけ出した喜びを表現する。

 さらに識字率を意識して多言語やイラストで対応したのも、大きな工夫のポイントと言えるだろう。濾過器の作り方や使い方を記した紙に、英語だけでなくアフリカの公用語であるアフリカーンス語を入れ、文字の読めない人もイラストだけで分かるような工夫を行っている。

多言語やイラストを用いて表現した濾過機の作り方
多言語やイラストを用いて表現した濾過機の作り方

 そうした鈴木先生、化学の先生、保護者などからのフィードバックを得たことに加え、さらにさまざまな人たちとの出会いや、ふれあいが大きな学びとなったことは明らかなようだ。作品の冒頭にあるインタビューのために渋谷の駅前に立ったときも、「初めてのことで緊張して話しかけることができず、想像以上に時間がかかり何度も心が折れそうになった」というが、思い切って話しかけたら人々が協力してくれたという実感は大きな自信につながった。そしてインタビューという演出をしたことで、「日本人には考えられないほど、汚れた水を飲んでいる人たちが多く存在する」という問題提起を際立たせ、動画に生き生きとした雰囲気を作り出すことに成功した。

 また実現可能性を検証するためにユニセフを訪問したことも、貴重な体験となったようだ。実際に国際支援に取り組む職員からアドバイスをもらっただけでなく、飢餓や物資支援の現状について詳しくレクチャーを受けたことで新しい気づきや考え方の変化などもあったという。

提案の実現可能性を検証するためにユニセフを訪問した二人
提案の実現可能性を検証するためにユニセフを訪問した二人

 「生徒たちにとって動画や濾過器を作る“過程”こそが最も大きな創造的な学びになったと思います。ご協力いただいた皆さんには本当に感謝しています。そうした現実社会とのつながりが大きな刺激になり、生徒たちの取り組みへのモチベーションが高まったことを実感しました」(鈴木氏)

「やってみる」ことで、理想と現実を埋める可能性が見えてくる

 受賞が報告された際には、生徒たちは無邪気に喜んでいたというが、同時に「落ち着いていて自信にあふれて見えた」という。

 「完成した時点でやりきった充実感が得られており、さらに応募前に多くの方に動画を見てもらい、『実現すると良いね』『とても良いアイデアだと思う』などの声をたくさんかけてもらったようなんです。それが彼女たちの大きな自信にもつながったようにも思います。入選したことは喜ばしいことですが、それ以上に学ぶ過程でさまざまな気づきを得たこと、実際に行動し自信をつけられたことが何よりの収穫だと思います」(鈴木氏)

 もともと同校にはフリーテーマで掘り下げる「自由研究」の授業や、テーマと行き先が分かれた約25個のコースから自分の興味に応じて選ぶ「課外教室」など、自学自習で取り組む機会が設けられている。多くはレポートの提出で完了するが、中にはスピーチによる発表を行う場合もあるという。また情報の授業ではプレゼンテーション資料を作って発表したり、シナリオを書いて寸劇を行ったりすることもある。そのため、同校の生徒は人前に出て自分の意見を伝えることに苦手意識が少ないのではないかと鈴木先生は分析する。

 「それでも校外に向けての発信ができたということは、生徒にとって大きな自信につながったと思います。そして、同年代にそうした生徒がいるということは、他の生徒にも大きな刺激になるのではないかと期待しています。残念ながら、ちょうど新型コロナウイルスによる学校閉鎖と重なり、校内での紹介はまだできていませんが、ぜひとも校内で表彰や発表を行い、他の生徒たちの反応も見てみたいですね」(鈴木氏)

 そして、挑戦から学びを得た生徒たちは、ごく自然に次の挑戦へと進んでいく。日野さん、森谷さんも、「今後は動画で提案したことを実現するために、実際に企業に協力を依頼したり、濾過器の精度をより高めるため改良を続けたりしたいと思っています。また、この動画を多くの人に見てもらい、水の大切さやSDGsについて考える人が1人でも増えていくよう、広告活動も続けていきたいと思います」と意欲を語る。また、今回の経験を活かし、他のことにも挑戦していきたいという。

 「今回の取り組みは、まさに生きた学びだったと思います。学校の勉強は社会の入り口へとつながっており、意識しながら学ぶことが大切。英語やICT教育などは必要性が分かりやすく、学校としても力を入れていきますが、社会的課題の解決や自分の人生を豊かにすることを考えれば、創造性や問題解決力なども含め、文理を問わずさまざまな学びが必要です。変化の激しい時代にあって『やってみなければ分からないこと』も多いでしょう。机上ばかりでは理想や理屈にとどまってしまいがち。こうした機会を含め、自分たちができることを考えながら実践で学ぶことを大切にしてもらいたいと思っています」(鈴木氏)

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著者プロフィール

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

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