COPERUのファシリテーターは「教えない」
――山中先生は「COPERUプロジェクト」を企画して子どもたちのプログラミングを用いた探究活動を推進しているということですが、どんな取り組みなのでしょうか?
山中脩也氏(以下、山中):COPERU プロジェクトは、「プログラミングはコンピュータとの対話である」というポリシーの下、「コンピュータを用いた科学的探究」を体験する場の提供を目的として、明星大学などの学術機関、日野市をはじめとする地域、企業が共に連携して推進してきました。その中では、情報学・教育学・言語学・哲学などを背景とする研究者の方々にご協力いただきながら、プログラミング教育の「なぜ(Why)」「なにを(What)」「どのように(How)」について、共に考え推進しています。
また、2018年、2019年には明星大学を会場に「『コンピュータと学び』のフォーラム」を開催し、プログラミング教育にさまざまな立場で関わっている皆さんの発表や交流の場も作ってきました。
――子どもたちと関わる具体的な活動にはどのようなものがありますか?
山中:2017年から日野市の小学校のクラブ活動や児童館等でプログラミングの指導と教材提供を行ってきました。2018年からは明星小学校の放課後活動や神奈川県相模原市教育委員会の研究会などにも参画しています。
また、2018年、2019年の夏休みには日野市の施設に「プログラミングパークCABA(Computer-Assisted Bouken & Asobi)」を開設しました。開催期間中は小学生4年生から大人まで、誰でも何回でも通えるプログラミングによる探究活動の場で、多くの方にご参加いただきました。
――以前EdTechZineでも「プログラミングパークCABA」を取材しましたが、大勢のファシリテーターの皆さんが関わっていましたね。
山中:そうですね。「CABA」のファシリテーターは、COPERUの趣旨に賛同して集まったさまざまな立場の大人が務めています。明星大学の学部生や院生が多く、将来教師を目指しているメンバーもいます。
――ファシリテーターの皆さんが気をつけていることは何かありますか?
山中:一言でいえば、「教えない」ことです。子どもたちがまずやってみて、自ら気づくことを待つ、という姿勢をファシリテーターの皆さんには徹底してもらっています。
――なるほど。なぜそうした姿勢を重視しているのでしょうか?
山中:それはどんなに面白い内容でも、一人ひとりが感じ取る面白さや、面白いと気づくまでの時間が異なると思うからです。
一般的に勉強というと、先生や教科書で最初に法則などを学んでから演習を行うイメージがあるかもしれませんが、CABAでは、最初に学ぶことにほとんど時間を割きません。背景にある法則を自らが発見するように工夫されたテキストを用いて自分自身のペースで体験を進めていきます。
まず、テキストを見て不安に思いながらもプログラムを書いてみて、実行して動くかどうか確かめる。ゼロから始め「コンピュータとの対話」とも言うべき「やりとりの体験」を通して、背景にる法則を自ら「推測し」、そして、その推測をコンピュータに「正当化」してもらう(実行結果が返ってきて合っていると気づく)ことで、「発見」やその過程である「探究」の面白さを実感できます。そのための環境づくりが大切だと考えています。
このように自分の推測を大事にする環境をつくることで、子どもたちは探究することに自信を持てるようになっていきます。はじめは小さな推測でも、これを繰り返すことで、多くのことを推測できるようになる。プログラミングに限らず今、教育現場が子どもたちに身につけてほしいと思っていることは、社会に出た際に、このように推測(推論)を繰り返して「1から10を想像できる力」だと私は考えています。