デジタル化で激変する世界についていけるか
冒頭、会場とのセルフィーからスタートした圓窓代表の澤氏のセッション。「ドヤ顔で語れるちょっとした小ネタ」として、現代日本人が1日に触れる情報量が「平安時代の一生分」であり「江戸時代の1年分」であることを紹介した。これは決して現代人の脳のサイズや働きがよくなったわけではない。あくまでハードウェアコンフィギュレーションは20万年前以来変わっておらず、「データとソフトウェアのアップデート」でここまできたというわけだ。
現代人が膨大な情報量を獲得できるようになったのは、飛行機など「高速の移動手段」のおかげだ。早く遠くまで行けるようになり、触れられる情報が格段に増えたということである。
しかし、平安時代と江戸時代における交通の最速手段は「馬」で同じはず。平安時代になくて江戸時代に存在したものは「地図」であり、それによってスムーズな交通が可能になったことで、必然的に遠くまで早くたどり着けるようになったのである。さらに「どこに行けば誰に会えるか」の情報が得られるようになったことで、スムーズな情報交換が可能になった。つまり、通信の発達によるものが大きい。
さらに「現代はインターネットの登場で『めちゃくちゃ』触れられるデータが増加している」と澤氏は続ける。世界に存在する全データのうち、90%が直近2年で生まれたデータだという。それも常に更新されており、指数関数的に増えていることから、その割合がさらに高まるのは必然だ。そうなるとビジネスや経済のあり方も変わってくる。現在、オンライン上に存在するマネーの割合がすでに93%を占めると言われている。実際に触れられる紙幣などは7%に過ぎず、これに仮想通貨が加わるとさらに割合は高まる。
澤氏は「そうした世の中の構造変化に私たちはもっと敏感にならなければならない」と強調し、さらに中国でのデジタルマネーの普及率について語った。中国では「アリペイ(支付宝)」と「WeChat Pay」が非常にポピュラーな決済手段として定着している。結果として、タクシーや結婚式のご祝儀、さらにはホームレスが持つ紙コップにまでQRコードが入り、スマートフォンで決済が可能だ。自動販売機もキャッシュレスになることで盗難が減り、セキュリティレベルも高くなったという。
さらにデジタル化によって、買い物の形も大きく変わってきた。澤氏は「人はモノではなくコンテンツを買うようになった」と解説する。ネット上で何かを買う時に、私たちは価格を調べ、評判を調べ、到着日時を調べる。一度として物に触れることなく、コンテンツを買い、「結果として物が届く」というわけだ。時としてリアルよりもデータを信用して行動するようになり、澤氏は「良しあしはともかく、『データになっていないとこの世の中に存在しない』と判断されてしまう現状を理解することが大切」と語る。
もはや情報発信における信用性は実際と一致していることが重要であり、必然的に信用でビジネスを行う全ての企業はテクノロジーカンパニーとならざるを得ない。こうした社会において重要なのは、時代に即したマインドセットだ。それでは、どのようにマインドセットを更新していけばいいのか。
従来の「よい」価値観に疑問を持つことから始めよう
社会的に成功し、豊かな人生を生き抜くためには「よい」人間になることが大切と考えられている。果たして、この「よい」とは何なのか。
これまで「よい子」の定義とは、先生や親の言うことに従い、勉強や習い事を頑張り、ルールや常識を守るといったものだった。しかし、「イノベーション」がもてはやされる昨今、澤氏はそこに疑問を持つべきだと語る。
「変化の激しい時代に、過去の経験にのっとって行動する大人が常に正しいのか。どこかで体系化された汎用スキルである勉強や習い事は必要条件ながら、十分条件ではないだろう。また、ルールや常識が無駄な制約になってはいないだろうか。このように従来の価値観を疑うことが必要となる」
澤氏が疑問を持つ似たような構造が、ビジネスの世界においても見受けられる。これまで日本は「いいものをつくれば売れる」という発想のもと、高品質な家電製品を作り出してきた。しかし、例として薄型テレビの世界シェアを見てみると2007年には韓国に追い越され、2013年には3位に陥落している。理由は、品質はいいが高価であるために、市場のニーズと必ずしもマッチしておらず、「品質と価格がちょうどよい」製品に負けてしまったことにある。
澤氏は「マーケットニーズを的確に反映した製品が、シェアを獲得しているということに他ならない」と解説し、「『何が求められているのか』というマーケットニーズを的確にくみ取っていくことが、これからの時代に生きる上で重要」と分析する。実際、平成元年における世界の「企業の時価総額ランキング」で上位にあった企業は日本企業も含めて成熟産業ばかり。平成30年には顔ぶれがガラリと変わっており、いずれもテクノロジーを活用して新しいモノやサービスを作り出す企業だ。つまり、日本企業は工夫改善に優れていても、新しいモノを生み出す力が弱いためと考えられる。
澤氏は「日本は新しいモノを生み出す力を鍛えるか、もしくはイノベーションの価値が高い時代にあることを認識した上で、新たなルールのもと行動していくことが重要」と語り、「これまで『よい』と定義されてきた物事が通用しなくなり、それもどんどんアップデートされ、必ずしも今後も『よい』ものとは限らない。データが増え、ニーズも多様化する中で、イノベーションは現在の『よい』考え方からは生まれない。既存のルールから離れ、いかに新しいルールをアップデートできる存在になれるかが重要」と強調した。