産業界は優秀なプログラマーを熱望している
「Tech Kids Grand Prix(テックキッズグランプリ)」は、「21世紀を創るのは、君たちだ。」をスローガンに、次世代のイノベーター発掘をめざして、IT企業10社を含む13団体の賛同と、渋谷区および渋谷区教育委員会の後援のもと、今年初めて開催された国内最大級の小学生プログラミングコンテストだ。プログラミングを楽しみ、本気でプログラミングを学ぶ小学生が輝ける場として、今後毎年の開催を予定している。近年、プログラミングを習い事として学ぶ子どもたちが増えており、各スクールでは定期的に作品発表会などが開催されてはいるが、同コンテストは所属するプログラミングスクールや年齢に関係なく、「小学生」であれば、誰でも応募できるのが特徴だ。
オープニングでは、サイバーエージェント 代表取締役社長の藤田晋氏が登壇し、来場者らにメッセージを送った。同氏は、「これからの10年で、日本からもスーパースターと呼ばれるようなプログラマーが出てくると思います。将棋の世界でも15歳の藤井棋士が出てきたように、小学生からプログラミングを学ぶことで、そんな子が出てきてほしいのです。産業界は優秀なプログラマーの登場を熱望しており、プログラミングの世界には将来性があります。『プログラミングが好き』という気持ちを大切に、これからも学んでください」と語った。
続いて、渋谷区長の長谷部健氏も登壇。同区は2017年度から区内の小中学校の全児童生徒に対して、8000台近くのタブレットを導入している。同氏は「渋谷区には多くのIT企業があり、それが強みです。渋谷区でも昨年から小中学校にタブレットを導入しており、これからの子どもたちはテクノロジーや知識をどう活用していくかが大切です。今回のコンテストのような取り組みを積極的に支援していきます」とエールを送った。
テックキッズグランプリの決勝プレゼンテーションには、「ゲーム」と「自由制作」、2つの部門が設けられている。それぞれの部門で6作品ずつノミネートされており、小学生たちは5分間のプレゼンテーションで競い合う。審査基準は「【1】VISION(子どもたちの掲げる夢や実現したい世界観)」「【2】PRODUCT(夢を実現するクリエイティブなアイデアとそれを体現した作品)」「【3】PRESENTATION(自身のビジョンやプロダクトを社会に発信していく姿勢)」の3つの視点で評価された。コンテストの頂点は、各部門で1位を決めた後、そのどちらかが総合優勝に決まる仕組みで、小学生たちはITやビジネス分野の第一線で活躍する審査員を前に、精いっぱいのプレゼンテーションを披露した。
【ゲーム部門のトップ3】子どもたちの「こだわり」と「工夫」が満載の作品が勢ぞろい
まずはゲーム部門から見ていこう。ゲーム部門では最年少8歳から12歳まで、6作品が披露されたが、どの子どもたちからも「ゲームが好き」という気持ちが伝わってきた。VRを使ったゲーム、ドット絵でキャラクターを仕上げたゲーム、大好きな数学をモチーフにしたゲームなど、子どもたちのこだわりが満載で、プレゼンテーションでは「ゲームで多くの人を楽しませたい」「たくさんの人に遊んでほしい」と聴衆に投げかける姿も印象的だった。
ゲーム部門の1位に輝いたのは小学5年生の宮城采生さんが制作した、重さやスピードの異なる動物ブロックが推し合う押し相撲ゲーム「オシマル」だ。同作品はCPUを相手に対戦するスマホゲームで、敵の陣地に味方の動物ブロックを3体ゴールさせた方が勝ちになる。動物によって性能が異なるので、どのタイミングで、どの動物ブロックを配置するかが勝負の行方を左右するゲームだ。
宮城さんは開発段階で苦労した点について、「動物ブロックの生成が一番大変でした」と述べた。動物ブロックはプレイヤーが地面にタップしたときに生成される仕組みだが、敵のブロックがランダムに生成されたときと、味方のブロック生成のタイミングが重なるときがあり、それを解決するのに苦労したというのだ。「最初はOnTriggerの機能を使ってやってみましたが、それだとうまくいきませんでした。いろいろ試した結果、最後はレイキャストが地面に当たったときにだけブロックを生成するようにし、動物が重なったときはスケーリングで問題を解決しました」と宮城さんは試行錯誤のプロセスを語った。宮城さんは、こうした情報をUnityのウェブサイトで収集しながら課題を解決したという。
ゲーム部門第2位に選ばれたのは、小学6年生の羽柴陽飛さんだ。羽柴さんはビジュアルプログラミングのScratchを用いて、点と線で構成された新感覚ゲーム「Point vs. Line」を作成した。同ゲームは遊び方も簡単で、「点」はスコアと表示された青い点をめざして縦横に移動し、「線」はそれを阻止するというもの。「点」が5ポイントを獲得したら勝ちとなり、「線」に当たった時点で負けとなる。
羽柴さんは、「点」と「線」というシンプルなゲームを作った経緯について「どんな人にも遊びやすいゲームを作りたくて、単純な図形を使うことを考えました」と語った。一方で、光の表現や動き、音の使い方にはこだわり、「新感覚」のゲームに見えるよう工夫した。例えば、ラインの発射表示の矢印。丸の縦移動の動きのみで、3Dで回転しているような動きを表現した。羽柴さんはこうしたアイデアを、エレベーターの表示を見て思いついたという。プレゼンテーションの最後では「どうしたらゲームが楽しくなるかをゼロから考えられたことが良かった。世界中の人に遊んでほしい」と作品に対する想いを述べた。
ゲーム部門の3位を受賞したのは、小学3年生の長谷部 環さんだ。開発したのは、地球を守るため得点(光年)を競う王道シューティングゲーム「宇宙突戦争」。Scratchを使って作成した。長谷部さんは「最初は単純なシューティングゲームを作ったのですが、そのうちにやりたいことがたくさん出てきて機能が多くなりました」と語った。必殺技も、必殺ゲージがMAXのときしか出せないという工夫を盛り込んだり、弾幕がきれいに見えるように、色や角度にこだわったりしたという。
長谷部さんがもっとも苦労した点は、敵が放つショットのプログラムだ。「Scratchのクローンを使ってショットを作りましたが、思った場所から出てきてくれなくて心が折れそうになりました」と話してくれた。同ゲームはほかにもさまざまな機能を盛り込んでおり、少しでも面白いゲームに仕上げたかった気持ちが伝わってきた。