新宿の区立小中学校のICT環境
新宿区ではプログラミング教育が話題になるずっと以前より、小中学校全教室のICT環境や教員用のパソコン環境などを整備してきた経緯がある。そんな中、昨年(2017年)度中に新たな計画が策定され、子どもたちのパソコン環境が一気に改善された。タブレットPCであるSurfaceが、1学年の人数分程度の台数、全校に支給され、ネットワーク環境や各教室のプロジェクターも、より使い勝手の良いものにリプレイスされた。このタブレットPC導入のおかげで、パソコン室に閉じ込められずに自由なスタイルでパソコンを活用した授業ができるようになっている。
新宿区ではプログラミング教育のノウハウの蓄積に向け、専門家の派遣や研究指定校での研究を進めている。落合第二小学校(以下、落合第二小)では、昨年度に一度、区から派遣された講師によるプログラミングの授業を実施したが、新学習指導要領のプログラミング学習に向けてはまだ準備の段階だ。そんな中、夏休みに「プログラミング教室」を実施したのはどのような経緯だったのだろうか?
PTA行事での雑談がきっかけ
ことの始まりはPTA関連行事での何気ない立ち話だったそうだ。落合第二小には保護者による「おやじの会」があり、そこにプログラマーとして仕事をしているメンバーがいた。そのメンバーが大坂校長とたまたま言葉を交わした際に、プログラミング教育のことが話題になったのだ。実は大坂校長自身が中学の数学の教員出身であり、学生時代にプログラミングに親しんだ経験もある。また、副校長を務めた前任地の中学校は、ICT教育の先行実施校でもあった。ICT機器やプログラミングの予備知識が豊富な大坂校長の決断は早く、学校を会場にプログラミング教室を開催することで話が進んだ。
「おやじの会」のプログラマーのお父さんは、子ども向けプログラミング講座に関わった経験があったため、教材選定や実施内容などに関しては提案を受けすべて任せ、学校は機材や場所の提供をする形式をとった。例えばスポーツに関して、PTAが中心になって「○○教室」をやるといった活動は珍しいことではないが、プログラミングのようないわゆる文化系の活動でも同じことが実現したのは、感覚的にとても新しく面白い。
プログラミング教室の内容や位置付け
夏休み中の2日間、3つにグループを分けて教室を開き、希望者を募集して開催したところ、定員を上回る希望者が出て抽選になるほどの人気となった。1日目は低学年グループで「Viscuit」を1時間、中学年グループで「プログラミン」を1時間半実施。2日目は高学年グループで「IchigoJam」を2時間実施した。もちろん参加費は無料だ。
講師も運営も「おやじの会」の担当者が中心となって行われた。高学年のIchigoJamでは、プログラミング言語であるBasicのコードをタイピングするなど、少し高度なことにチャレンジするが、10名近いボランティアが参加してマンツーマンに近い体制で進めることができたという。非常に恵まれた環境だ。なお、Visucuitとプログラミンは無料で利用できるため、学校のタブレットPCからそのまま利用すればいいが、IchigoJamは安価で小さなものとはいえ基板型のコンピューターなので、学校が購入したものと講師役の保護者が所有していたものでまかなった。
「今回のプログラミング教室は授業ではないので、興味のある子どもたちに『楽しい』という体験や少し発展的な内容にチャレンジする場を作ることが目的でしたが、プログラミングをやってみたいという子どもたちがこんなにも多いということがよくわかりました。一番驚いたのは高学年で2時間もの間、子どもたちの集中が難なく保たれたことです。参加した子どもたちの興味関心を高める良い機会になりました」