「教育の情報化」フォーラム、後半の冒頭では「若年層に対するプログラミング教育の普及推進事業 成果と今後の展望」について総務大臣補佐官の太田直樹氏が挨拶を行った。
太田氏は、今後の指数関数的なICT技術の進化を受け、2030年には現在の仕事の約半分がAIに置き換えられてしまうという予測を紹介。13年後、つまり現在の小学1年生が成人するまでに、世の中の変化に対して教育はどのように対応しているかが大きな課題であり、「必要なのは『プログラミングを学ぶ』ことではなく、『プログラミングで何をつくるかを学ぶこと』である」と強調した。
そこで求められるのが、対応できる指導者(メンター)の育成であり、質の高い教育が「いつでもどこでも」受けられる環境づくりだ。太田氏は「ハイレベルなICT人材を育成するには裾野が広いことが大切」と語る。そのためには省庁の垣根を越えて総力戦で取り組むべきとし、「若年層に対するプログラミング教育の普及推進事業」への期待を表した。
裾野を広げるための施策として推進、全ての関係者において高い評価
続いて総務省情報流通行政局 情報通信利用促進課長の御厩祐司氏が登壇し、「若年層に対するプログラミング教育の普及推進事業 成果と今後の展望」の成果および今後の展望について発表した。
平成28年度の実施プロジェクトは11ブロック11カ所にて行われた。まず「メンターの育成」については248人が対象となり、大学生や高校生などの学生、PTA役員や地域おこし協力隊員など多様な人材が参加した。育成実施後のアンケートにでは約7割の参加者が「メインで指導可」「サブがつけば指導可」と回答し、現場での指導に対応できるとした。また、プログラミング経験より教育経験の有無のほうが指導に対する自信に影響しており、指導者としての不安を取り除くには少なくとも4時間以上のOJT講座を受講することが効果的と判明した。
また、教育経験がない人は講座担当後に「思うような講座ができていない」と自信を失うことが多く、そのような人を指導者として育成していくためには丁寧なフォローが必要であることもうかがえる。
さらにメンターを送り出した学校側の反応がそれぞれ紹介され、「ヒントをうまく出して子どもたちが気づくように努めた」「正解はないのだと実感」(高校生)、「段取りの大切さがわかった」「子どもたちの自由な発想を見て視野が広がった」(大学生)、「生徒の成功体験となった」「PDCAサイクルの大切さに気づいたようだ」(学校)といった、メンター側への効果に関する声が多く聞かれた。また、「世代間交流のきっかけになる」「大学の地域貢献にもなる」との評価もあった。
一方、受講した児童・生徒については、756名(男子499名・女子257名)が参加し、小学校高学年(81%)を中心に11ブロック中5ブロックがロボット教材を使い、課題に取り組んだ。プログラミング講座は「(1)継続学習につながるよう楽しく取り組めること」「(2)論理的思考力、課題解決力などのスキル・意識を高めること」の2点に留意して実施され、(1)に関しては92%の児童・生徒が「楽しかった」と回答している。
なお、開始前にはプログラミングが楽しみではない児童・生徒もいたが、1回受講することによって多くの子どもたちの考えが変わっている。また、7割が継続学習を希望しており、特にロボット教材を利用したほうが継続学習への希望が大きくなる傾向が見られた。
スキル・意識の変化では、アプリ・ゲームの仕組みの理解や他者との協働、創意工夫の3点をできたとする回答が多い。メンターもまた、その部分を評価している。しかし、時間的な制約からか、自分なりの作品を制作し発表できたとの回答は少なかった。
わずかながら協働・課題解決は女子が高く、ものづくりに対しては男子が高く評価したが、他に有意差はなかった。
教材別に見ると、ロボット教材では創意工夫・協働が、ロボットを使わない教材ではゲーム・アプリの仕組み理解、粘り強さなどが高く評価されている。また、受講前後での意識変化では、目的実現に向けた方法の思考、グループでの協働意識、社会への貢献意識の3点が有意に上昇した。なお、プログラムエラーが出た際に7割超の児童・生徒が自ら対応することを選び、論理的思考を働かせつつデバッグを行う児童・生徒が約4割存在し、全てのプログラムを消してしまう非論理的行動をとる児童・生徒も1割程度存在した。
次に、児童・生徒の反応を「Enjoy」「Change」「Respect」「Challenge」の4点に整理・分類し、それぞれについての自由記述による感想が紹介された。「達成感がすごい」「工夫を入れると楽しくなる」といった子どもらしい感動や、「アプリはよくないと思っていたが、よいところがあることも気づいた」など家庭でICT使用を禁止されていることがうかがえるコメント、「作るのは大変」「すごいと思った」といったゲームやアプリの作り手への敬意、そして「家でお母さんが楽になれるプログラミングをしてみたい」「自分をプログラミングしてみたい」など未来への意欲を示すものも多かった。
また、8割超の保護者が今後も子どもにプログラミングを続けさせたいと考えており、学習の場としては学校の授業が6割、放課後の教室やクラブなどが4割といった回答だった。さらに、子どもの変化を通じてプログラミング教育の意義を実感したと語る保護者も多く、特別支援学級の児童の保護者からも同様の好意的な評価が得られた。その一方で、プログラミングの悪用や依存、経済的負担を心配する声も寄せられた。教育の現場からは、実証校の校長・教諭、視察に来た校長・教諭共に、プログラミング教育の意義を実感し、抵抗感が解消したなどの感想が多く、教育委員会も「必修化に向けての準備に役立った」と好意的な意見が多く、中には全校への横展開を決めた委員会も出ているという。
国による教育はいわば「裾野を広げるための教育」だ。基盤となるICT環境の整備促進に取り組みつつ、障害を持つ子どもを含め、どんな子どもでもプログラミングを学べる教材の開発にも取り組んでいくという。御厩氏は「2020年には、プログラミング教育ができる学校を100%にしたい」と改めて目標を語り、結果報告発表をまとめた。