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EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

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キーパーソンインタビュー

AI活用を急ぐあまり、日本の教育現場で起こり得るリスクとは? 最優先で身につけるべきリテラシーと倫理

法政大学 キャリアデザイン学部 キャリアデザイン学科 坂本旬教授インタビュー

活用の前に「仕組みの理解」と「出力結果を評価する力の習得」が必要

──これらの問題について、なぜ日本では十分な議論が進まないのでしょうか。

 日本の教育業界は、テクノロジーを「教育をよくするに違いない」と楽観的にとらえるか、あるいは「ICTで教育ができるわけがない」と全否定するかの極端な立場に分かれがちです。

 ですが本来は「活用するために批判的に考える」という第三の発想が必要であるはずです。すでに社会にデジタル技術が浸透しているにもかかわらず、その導入によって生じる問題や、どう扱うべきかという基本的な原理を議論する土台が、学術的にも非常に不足しています。その結果、現場の先生方はAIに関する十分な知識が不足している状態で、活用を急ぐ声に引っ張られてしまいます。

──では、このAI時代において、教育現場で優先すべき「AIリテラシー教育」はどのような内容であるべきでしょうか?

 AIリテラシー教育で最も重要なのは、活用の前にまず「AIの仕組み」を理解することです。LLM(大規模言語モデル)の仕組みや、AIがなぜバイアス(偏り)やハルシネーション(虚偽情報)を発生させるのかという原理を理解すれば、「AIは思考していない」こともわかります。

 次に重要なのは、AIの出力結果を評価する力を身につけることです。AIが出した答えを鵜呑みにして、「すごいね」で終わらせてはなりません。

 もちろん、これらは先生だけでなく、子どもたちも系統的に身につけるべき能力です。

──「AIの出力結果を評価する力」を身につけるにはどうすればいいでしょうか。

 それは「基礎学力」そのものです。5教科をはじめとした基本的な知識を身につけていれば、AIの出力がそれに合致しないときに「違う」と判断できます。例えば、算数の授業で生成AIに単純な計算問題を解かせると間違えることがあります。それを教材に「なんで違うんだろうね?」と議論することで、AIの仕組みと限界を批判的に理解できるようになります。

 現状の問題は「学力を伸ばすためにAIを使う」という矛盾が生じている点です。この矛盾を解決するためにも、まずAIの仕組みを理解し、評価する能力を身につけることが、AIを扱う前の前提にならなければなりません。

──文部科学省の政策や今後の学習指導要領では、AIリテラシー教育をどのように位置づけるべきだとお考えですか?

 現行のガイドラインではAIリテラシーを身につけるべき対象として教員のみが明記されていますが、子どもたちにとっても必要なのは間違いありません。アメリカの非営利団体「Common Sense」の教材のように、教員も子どもも「AIリテラシーを育てる」という方針を明確にすべきです。学習指導要領でも、AIリテラシーについて早い段階から系統的に教えていくことを柱に据えなくてはいけないと思います。

 一方で、東京都立の学校で導入された「都立AI」のガイドラインは、しっかりとAIリテラシーについて触れており、AIの仕組みをしっかりと学んだうえで活用することを前提としていました。これはいいと思いましたね。

 AIリテラシーの学びは、プログラミング教育で行われているアルゴリズムの学習にもつながります。プログラミング教育を単なる「プログラミングするだけ」で終わらせるのではなく、社会の中でアルゴリズムがどのように機能し、使われているのかを理解し、自分たちで設計してみるという組み立てに変えていく必要があります。

 そのうえで、教員よりも子どものほうがデジタル技術に詳しい場合も多々あるので、教員が一方的に教えるのではなく、子どもと対話する中で共に学ぶ姿勢が必要となるでしょう。「先生が知らないこと」を禁止するだけでは問題は拡大するだけです。私は対話型のデジタル・シティズンシップ教育を、学習指導要領に組み込むべきだと考えています。

AI活用で欠かせない「倫理」と「法的規制」

──最後に、教育現場でAIの活用を進める際、坂本先生が考える「第一歩」と「あるべき姿」をお聞かせください。

 まず、最も重要な「第一歩」は、教育関係者がAIに対する共通認識を持つことです。日本の教育現場には、この分野に関する研究や議論の土台が非常に乏しいため、まずは海外、特にユネスコなどの国際機関の報告書や研究成果が示す、AIの仕組み、バイアス、リテラシー、倫理といった最低限の知識を共有することから始める必要があるでしょう。

 それを踏まえて、先ほどお話ししたようにAIリテラシーと倫理の学習を前提に活用すること基礎学力をはじめとしたAIの出力結果を評価する能力を身につけること、そして子どもの権利を守るための法的な規制についても教育現場から求めていくべきでしょう。個人のモラルに頼るのではなく、国として法律を定めたうえで、組織としての倫理に基づいたガバナンスを強化するなどの対応が不可欠です。

 ユネスコの報告書にもあるように、AIの導入は倫理と包摂性を前提として進めなければなりません。EUの議論を参考にしながら、私たち市民全体のプライバシー、そしてとりわけ子どものプライバシーを守るための議論を、教育界全体で活発化させるべきです。「どこがやるの?」「誰がやるの?」ではなく、今すぐにでも始めなければならない喫緊の課題ではないでしょうか。そして、AIを道具としてみなすのではなく、エージェントとしてみなすことによって、AIとの倫理的・共創的な関係をどのように作り出すのかということに焦点を当てる必要があります。

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この記事の著者

森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

EdTechZine編集長。好きな言葉は「愚公移山」。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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