授業にICTを導入したきっかけ
私がICTを活用した授業を実践することになったきっかけは、コロナ禍における密を避けるための分割授業でした。1クラス40人の生徒を2部屋に分け、それぞれの部屋で同時に実験を行う必要があったため、事前に教員が説明付きの模範動画を撮影・作成し、生徒にはその動画を見ながら実験を進めてもらうことにしました。動画内では実験の目的や手順、組み立て方を詳しく解説し、動画編集には「Clipchamp」を使用。適宜、図表や字幕を挿入することで、よりわかりやすい内容にしました。その後、完成した実験模範動画を、「Microsoft 365 Education」が提供している動画共有アプリケーション「Microsoft Stream」を使って生徒に配信します。生徒たちはStreamにアップされた動画を見て、手順を確認しながら実験を行います。
この方法はコロナ禍が落ち着いても継続することにしました。これによって、説明時間の短縮と生徒による実験実習の効率化が図れました。

【実践その1】実験動画の撮影と編集
生徒自身に動画の作成・編集をさせる取り組みも行いました。中学理科の化学分野では、pH試験紙上に垂らした電解質水溶液を酸性・アルカリ性に分ける実験「電気泳動」や、電解質水溶液に電流を流して気体を発生させる実験「電気分解」を行いますが、その際のイオンの動きがゆっくりでわかりにくいため、生徒にClipchampを用いた早回し編集をさせ、現象をよりわかりやすく可視化することを試みました。


この実験指導の後、動画撮影・編集に対する所感や効果測定について、生徒には「Microsoft Forms」を用いて以下の質問への回答を依頼しました(有効回答数182)。
(1)実験結果を動画に撮影することには、学習面でどのような効果があると思いますか?
回答(抜粋)
- 何回も見返すことができる。自宅で見返すこともでき、復習に役立つ。
- テスト前、プリントで結果を文字や図で確認するだけでなく、動画で見ることで復習がより深まる。
- 実験中に見逃していた変化点を発見できる。実験結果を後から確認することで、細かい変化まで把握できる。
- 結果だけでなく、途中経過がわかる。目視では確認しづらい変化を、動画で明確にとらえられる。
- 今回の実験は変化がゆっくり進むため、気づきにくいが、動画を撮ることで早送りして確認すると変化がわかりやすくなり、理解しやすい。
- 変化を確認できるため、考察や復習の際に役立つ。
このように、時と場所を選ばず実験の復習ができることがメリットであり、学習内容の定着や理解の促進に役立つだけでなく、観察力の向上にもつながることに言及していました。
(2)どのような理科実験を動画で撮影すると学習に効果的だと思いますか?
回答(抜粋)
- 長時間にわたって行う実験や、変化がゆっくり進む実験。
- 肉眼では変化がわかりにくい実験や、変化が少ししか起こらない実験。
- 言葉で説明するよりも、映像で見たほうがわかりやすい実験。
- 実物を見ているだけでは変化がわかりにくいものや、複雑な現象が関係する実験。
- パソコンを使うこと自体が楽しい。
肉眼で確認しづらい現象や、言葉では説明しにくい実験に動画撮影が有効であるとの意見が多くありました。また、パソコンを使用すること自体が楽しく、学習のモチベーション向上につながると感じる生徒も一定数いました。
(3)今後も実験結果の動画撮影(編集を含む)をしたいですか? また、その理由は?
「はい」81%:回答(抜粋)
- レポート作成やプレゼンテーションに便利。
- 変化が顕著に現れる実験や、写真では伝わらない音が関係するような実験の説明に役立つ。
- 実験結果に至るまでの変化やプロセス、実験器具の設置方法などを確認できる。
- 見学に来ている小学生に授業の実験動画を見せることで、中学での学習内容を紹介できる。
- 復習に便利。
「いいえ」19%:回答(抜粋)
- 編集作業が大変。PCの処理が重くなると使えない。
- 作業が増え、効率的ではない。
- 実験の内容や手順が多いと、撮影まで行うのが負担になる。
自分の復習のみならず、他人に実験について伝えることを考えると動画撮影は有用であると考える一方で、作業の煩雑性や、それによって実験がうまくいかなくなることを本末転倒だと感じる生徒もいました。
また、中学理科の物理分野では、物体の運動の様子を記録テープ(紙テープ)および記録タイマーを用いた従来の方法と、ICT(動画撮影)を活用した新しい方法とで比較する授業を実施し、動画撮影の意義についても生徒に考えさせました。

この詳細については、日本物理教育学会の学会誌『物理教育 第72巻 第2号』に掲載された「動画撮影による物理実験の意義と生徒の反応」にて紹介しています。