「働き方改革」が進まなかった教育業界
最近、ベンチャー企業やスタートアップ企業といった急成長を目指す組織だけでなく、いわゆる中小企業から大企業、さらには教育委員会や地方自治体から「離職者・休職者が増えている」というご相談をよく頂きます。
さらに、教育委員会や地方自治体からは「若い教員がすぐに辞めてしまう」「なかなかよい人材が採用できない」といった声が上がることも少なくありません。
こうした「休職者の増加」「優秀な人材確保の難化」といった現象を別々に捉える方もいますが、原因は共通しています。本記事では対策を含めて解説していきます。
私は株式会社メンタルヘルステクノロジーズの代表、刀禰と申します。当社はメンタルヘルス問題の解決を目指す企業として2011年に設立されました。2024年6月末時点において、グループ全体で2300社以上のお客さまにご支持いただいており、さまざまな企業のメンタルヘルス対策と運用のお手伝いをさせていただいています。
また、教育委員会や官公庁といった公的機関のメンタルヘルス対策にも携わっています。全国の教職員のメンタルヘルスを守ること、ひいては子どもたちへのよりよい教育環境の提供を目指すため、コンソーシアムである「教職員のメンタルヘルスプロジェクト」を2022年に共同発足しました。2023年には那覇市教育委員会や千葉市教育委員会などの教職員のメンタルヘルス対策への支援を開始し、2024年には文部科学省に対するメンタルヘルス研究対策のコンサルティングを開始しています。
さまざまな企業でメンタルヘルス対策を数多く手掛けてきた私から申し上げると、教職員に対する労働安全衛生の取り組み状況は、一部の積極的な教育委員会や個別の学校長を除き「やっていないに等しい」という状況でした。現場の教職員の方々はがんばっておられる一方で、ほかの職業と比較すると、教職員の働く現場は自己犠牲の上に成り立っていることが多いのです。
こうした環境になった要因のひとつには、2019年から2020年にかけて施行された「働き方改革」および労働法改正で、教育業界が事実上の対象外となったことが挙げられます。この労働法改正は、対象となった業界や職種に大きなインパクトを与え、多くの企業で労務環境が「ホワイト化」するきっかけとなりました。
その結果、ここ5年間において、対象となった業界や職種と、そうでないものとの間で大きな価値観の差が生まれたのです。対象外となった職種では、若い人材が敬遠する傾向が強まりました。たとえ希望職種に強い思い入れがあっても、「現代の若者の価値観に合った職場環境」と「昭和的な慣習が強く残った職場環境」を比較すれば、多くの若者は前者を選びます。働き方への価値観は、それほど重要なのです。
皆さんもご存知の通り、2023年度公立学校教員採用選考試験では採用倍率が6年連続で低下し3.4倍となり、小学校に至っては2.3倍まで下がっています。[※]2.3倍というと、10人受験すれば4人以上が合格する計算になり、この倍率の低下は教職員の仕事の魅力度の低下、ひいてはその質の低下を招く可能性が高いと考えられます。
[※]出典:文部科学省「令和5年度(令和4年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況について」