前回のおさらい
教員の人気低迷に歯止めをかけ、長時間労働を改善するために、全国の学校で待遇改善や働き方改革が進められています。しかし、こうした取り組みだけで教員の確保・定着を図るのには限界があります。前回の記事では、教員の労働環境改善におけるポイントを以下のようにお伝えしました。
- 教員確保・定着のためには、働き方改革だけではなく「働きがい改革」が不可欠である。
- 働きがい改革を推進するためには、教員のモチベーション・やりがいを高める必要がある。
- モチベーション・やりがいを高めるためには、いかに「感情報酬」を提供できるかがポイントになる。
今回は、学校運営で起こりがちな組織課題と、その対策についてお伝えしていきたいと思います。
学校運営における3つの組織課題とその対策(1)
筆者は、企業の人事担当者と学校教員が交流する「HRC教育ラボ」というコミュニティを運営しています。同ラボに参加する教員の方々の意見や、学校の組織改善支援を通じて、学校運営に関する組織課題は3つに整理できることがわかりました。ここからは、学校運営で起こりがちな組織課題とその対策について解説します。
【1】「教職に関わる専門スキル」だけではなく「ポータブルスキル」も磨く
文部科学省が発表した新学習指導要領の中で「主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)」や「カリキュラム・マネジメント」が重視され、子どもたちへの教育の在り方は徐々に見直されつつあります。その一方で、現状の教職課程(教員免許を取得するための教育)は、まだまだ教科科目の知識やその教え方などの「教職に関わる専門スキル」に比重が偏っています。
もちろん、こうしたスキルは不可欠なものであり、伸ばし続けていく必要があります。ですが、それだけでは現場の教員が抱える「授業の準備」「マルチタスクの管理」「接し方が難しい生徒や保護者へのイレギュラーな対応」といった課題の解決につながるスキルとは言えません。
これらの課題解決につながるのは、教職に関わる専門スキルではなく、それらの土台となる「ポータブルスキル」です。
ポータブルスキルとは、普遍性が高いスキルの総称で、どこに行っても通用する社会人基礎力とも言えるものです。例えば、コミュニケーションスキルやタスクマネジメントスキル、課題解決力などはポータブルスキルに含まれます。
企業で働く人にとってもポータブルスキルは不可欠であり、従業員のポータブルスキル向上のために研修に力を入れている企業は少なくありません。特に若手の成長を促すためには、「顧客の納得感を高めるためどのようなコミュニケーションが必要か?」「どのように自分自身のモチベーションをコントロールしていくのか?」「タスクをどのように進めるのが効率的なのか?」といったポータブルスキルを強化することが重要です。
当社では、ポータブルスキルを大きく「対人力」「対自分力」「対課題力」の3つに分類しており、それぞれを構成する8つの力を定義しています。
対人力:人に向き合う際に必要な力
主張力/否定力/説得力/統率力/傾聴力/受容力/支援力/協調力
対自分力:自分に向き合う際に必要な力
決断力/曖昧力/瞬発力/冒険力/忍耐力/規律力/持続力/慎重力
対課題力:仕事に向き合う際に必要な力
試行力/変革力/機動力/発想力/計画力/推進力/確動力/分析力
これらのポータブルスキルは、当社が経済産業省より平成17年度「社会人基礎力に関する調査」を受託し、社会人に求められる基礎力に関する調査、要件定義などを行った内容を反映して構築したものです。
今後の学校運営に求められるのは、教員の教職に関わる専門スキルに加えて、ポータブルスキルを育成する仕組みを整えることではないでしょうか。教員一人ひとりが高いレベルのポータブルスキルを習得することで、効率的に仕事を進められることはもちろん、文部科学省が提唱する「主体的・対話的で深い学び」や「カリキュラム・マネジメント」が実現され、結果として子どもたちへの「よりよい教育」の提供にもつながるはずです。教員側も、学校からの研修をただ待つのではなく、自らの仕事をより充実させていくために自己研鑽する、といった姿勢も求められるでしょう。