文部科学省に対する具体的な取り組み
次に、具体的な取り組みの内容についてお伝えします。
文部科学省も、このままでは教職員の採用倍率が1倍を切ることも時間の問題だと認識しています。当社では2024年から文部科学省に対するメンタルヘルス研究対策のコンサルティングを開始しました。
その内容のひとつが、先述した「セーフティネットとしての産業保険を機能させること」です。現状では産業保健が十分に機能していないことが明確でした。教育現場でも産業医が選任され、ストレスチェックや健康診断が行われていますが、法令遵守に徹した運用に留まっています。法令を遵守しているからといって、メンタルを病む教職員が減るわけではありません。健康診断を受けているだけでは健康を保てないことと同様に、ストレスチェックを受けたり産業医と面談したりしても、根本的な改善は見られません。
そこで、ストレスチェックによって組織の課題や環境要因に対する仮説を立て、対策を実行するPDCAサイクルを回そうと動いています。また、産業保健スタッフが現場職員から信頼され、相談しやすい関係を築くことによって、セーフティネットとして機能させるために、以下のような取り組みを行っています。
教職員のメンタルヘルス問題を意欲的に解決する質の高い産業医の選出
当社では教職員のメンタルヘルス問題に関心の高い産業医である三宅琢先生、千葉大学の産業医であり精神科指導医かつ公衆衛生の専門家である吉村健輔先生に協力を得ながら取り組みをスタートさせました。
メンタルヘルス予防に関する知識を、医療職でない人でも分かる言葉で、医師から話す
教職員のメンタルヘルスに関心の高い医師が、医療職ではない人でも分かる言葉に置き換えて伝えると、教職員の方々は安心し、信頼度が高まっていきます。
産業医・産業保健師ともに「顔を売る」
産業医をサポートする立場である産業保健師も同様に、研修や動画配信を通じて、忙しい現場の教職員に迷惑をかけない程度に顔を売る努力をしています。教育委員会においては、多くの教職員が産業医や産業保健師の存在自体は認識しているものの、その顔や名前を知らないという状況です。顔や名前を知らない人を「信用しましょう」というのは無理があります。
以下の図のコンセプトで「信頼される産業保健チーム」の運営を始め、まだ1年経っていませんが、少しずつ手応えを感じています。数値として効果が現れるまでは時間がかかりますが、この方向性で現場の教育委員会の方々も自信を深め始めています。
私の経験上、具体的に成果(メンタル疾患が減少すること)が出るまで、最短でも1年、通常は3年程度かかります。組織文化が長年にわたって築かれているため、組織によって差が生じるでしょう。「産業保健チームが信頼されるようになる」ためには、組織の歴史的背景も関わるので簡単ではありませんが、日々、当社チームはこれらに取り組んでいます。
一方、メンタルヘルス対策として重要な「真の働き方改革」については、まだ手付かずの部分もあり、方向性を提言しています。教職員のメンタルヘルスは「構造的問題」が大きく、これらの複雑に絡み合った問題を解決しない限り、教職員のメンタルヘルス問題は解決に向かわないと考えています。解決のポイントは、先述した「仕事の量」「仕事の質」「職場の人間関係」です。これらが解決しない限り、セーフティネットとしての産業保健を機能させても、メンタルヘルス対策の効果は限定的であることも報告しました。
それぞれの具体的な内容は以下の通りです。
- 「仕事の量」は「業務量の増加」です。実際に事務作業を含め、20年前と比較して増加している可能性があります。
- 「仕事の質」は、周辺社会との交流や、子どもの両親とのコミュニケーションに時間がかかるケースが増えていること。また、対応が難しい児童が増加傾向にあることです(発達障害や、いわゆるグレーゾーンの子どもたち)。
- 「職場の人間関係」は、教師という職業の特性上、相談できる人が少ないこと。また、一定数のパワーハラスメントが存在する可能性も否定できません。
仕事量の増加などの状況は、今年再調査を行い、数値化する取り組みを進めています。部活動への関与の減少など一定の効果が見られる部分もありますが、部活動があまりない小学校の教職員の場合、保護者とのコミュニケーションや対応が難しい児童への対応などをすべて現場の教職員に丸投げするのではなく、組織的な課題として構造的に取り組む必要性を伝えています。