数理・データサイエンス・AI教育とDX人材育成について
1人目の登壇者は、文部科学省で2021年から理工農系人材やデジタル人材育成等を担当する奥井雅博氏。数理・データサイエンスや教育DX、人材育成に関する政府の政策動向および文科省で実施されている取り組みについて紹介した。奥井氏は「あらゆる方面でデジタル化が進んでいるが、質・量ともに人材は足りていないというのが共通認識。DXが進めば進むほど不足傾向にある」と語り、特に採用の観点から大卒者には「文理の枠を超えた知識・教養」に加え、「数理・データサイエンス・AI・ITに関する専門知識」が求められていることを紹介した。
そうした背景のもと、文科省はGIGAスクール構想や小学校でのプログラミング教育必修化、高校での「情報Ⅰ」必履修化などに取り組んできた。その土台の上に、大学ではさらに高度な学びを習得し、社会人になった後も5つの人材類型に分けた「リテラシー標準」を指針として提示。大学については「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(MDASH)認定制度」を設けて支援しており、382大学については「リテラシーレベル」として全員が「基礎的な能力」を、さらに147大学については「応用基礎レベル」として各学部の専門分野における「実践的な能力」を身につけられるように認定している(認定はいずれも2023年8月時点)。こちらは「AI戦略2019」から段階的に実施されている。
また、大学や高専などを全国9ブロックに分けた「数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアム」の活動では、「モデルカリキュラム」の提供や、実社会で使われているデータを活用し実践的な体験をする取り組みも実施され、専門分野ごとのシラバスなども共有されているという。
そして2024年には、大学・高専などへの人材育成への期待の高まり、生成AIなどの最新技術の活用とリスクやデメリット、企業などとの連携など、時代の変化に応じてモデルカリキュラムも改定された。大綱は変わらぬものの、「リテラシーレベル」では実際のデータ活用につながる「気づき」になるように、「応用基礎レベル」では生成AIの学習項目や産業界・地域などとの連携などがメッセージとして込められている。また、高校の「情報Ⅰ」とモデルカリキュラムとの関係なども示されている。
さらに奥井氏は「各大学における取り組み事例」として、情報系・工学系以外の学部・学科においても、農学系の農場や演習林、海の中でのデータを取得・分析がなされている取り組みを紹介。
さらに東京大学のメタバース工学部など、メタバースやVRを活用した講座が一般化していることを語った。そして大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ(Scheem-D)の活動として、データを集めて分析し、可視化していることを紹介した。
なお、教育未来創造会議(2022年5月)の提言として、DXリテラシーを優先的に身につける理工系の学生が諸外国とも比べて少ないこと、さらに中学・高校では高いリテラシーを持っている女性が、社会に出た際に能力を活かせていないことが指摘された。そのうえで、中長期的に大学の学部再編等による成長分野への転換の促進、高度情報専門人材の確保という2点において支援を行っている。
実際に支援対象の大学では、改組でデジタル分野に転換しようとしているケースが半数以上を占め、さらには高校でもDX加速化推進事業として「DXハイスクール」が進んでいる。当然ながら、高校と大学の連携が重要となり、実際にも交流やサポートが始まっているという。
奥井氏は改めて「高度な人材育成の観点から大学への期待は非常に高い一方で、小中高校、産業界や社会が一体となって取り組むことが効果的だと言える。大学間・高大・産学連携で協働・共創することが重要」と語り、「何よりも子どもたちが興味関心を持って楽しく学べることが大切。そのための環境づくりに協力いただきたい」と訴え、セッションを終えた。